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「…では、あの時、あなたが源を庇ったのは…。」
脳裏にあるのは、デートが思わぬ奇襲にあい、中断になったあの夜の記憶だ。遠瀬院は、執事を信じ切れずにいる次期当主を柔らかい口調で諭した。
『…以上の点から、源さんはとても良い執事なのではありませんか??』
遠瀬院は緩々と俯きがちになる。
「ええ。…私には、身に覚えがあったからです。まさか、と思ってはいたのですが。」
間を置いて顔を上げた遠瀬院は、凛とした声で訴え続けた。
「…私が好きなのは、御屋敷で働いていた使用人。新米の料理人で、一橋さんという方です。Ωの男の人だけれど、私はその人に運命を感じたの。」
でも、とさらさらした黒髪を靡かせ、令嬢は深く俯いた。
「…幾ら惹かれ合おうと、私は遠瀬院の跡継ぎ。一般人である彼とは結婚出来ない。…だから、彼との交際を解消して紅貴様との婚約を決めました。」
黒岩の悲痛な叫びがあがる。
「ですが、一橋はまだあなたを想っています!!あの男はひたむきにあなたをまだ好きで居続けているんですよ!?」
「…。」
遠瀬院は黙り込む。常にきらきらしていた瞳には、陰りがあった。…紅貴は静かに悟る。彼女の方にもまだ…未練があるのだ。
二人の会話に、割り込んでくる者がいた。…小男をボディーガード達に引き渡し終えた漆である。
「…Ωの一般人??惹かれ合った??運命を感じた??」
馬鹿らしいっ!!、と漆は一蹴する。憎悪のこもった双眸で、遠瀬院と黒岩の二人を凝視する。
「…少しは冷静になって考えてみたらどうです??紗千香様は、優れた血統のαなんですよ??αは少しでも種を存続させるため、α同士、或いは高い血統の者…紅貴様と結ばれるべきです!!」
黒岩が、憤怒の形相で反論する。
「紗千香様は子供を産むために御生まれになったのではありません!!私が紗千香様に仕えている理由は、紗千香様に御世継を産ませるためではありません!!」
「…黒岩さん、あなたこそ正気ですか??こんなことをしてただで済むと思ってはいませんよね??従者が主人に命を賭けていたのはとうに昔の話。所詮、現在の主従はビジネスの関係でしかありませんよ。」
「…源さん、おかしいのはあなたの方だ。ビジネスの関係??そんな薄っぺらいものが主従であるわけがない!!」
漆は燕尾服の胸の部分を鷲掴みにして、服が乱れるのも構わず吠えたてる。
「…それなら、黒岩さん。あなたの存在意義は何ですか??執事とは、家に仕える者。その家の存続を助けるための存在ではないのですか!?」
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