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ベッドの傍らには、紅貴の他に衣笠、牧原の姿があった。三人とも着の身着のまま、病院に来ていた。ベッドの枕元に立つ中年男性の医師は粗方説明を終えると、こう締めくくった。
「とりあえず、今日は他に異常がないか簡単な検査をしましょう。異常が出ないようであれば、明日にでも退院が出来ますよ。」
医師の言葉に、患者がゆっくりと口を開いた。
「…先生、今日中に帰れはしませんか。」
柄にもない態度に、医師はもちろんその場に居た全員が閉口する。少しの間を置いて、医師が答える。
「…源さん。あなたは、道端で倒れたんです。大事をとって、今は休むべきです。」
「…はい。」
執事は眉根を寄せ…、渋々、といった体で首を縦に振った。見届けた医師は、うんうんと頷いてから病室を後にする。扉を閉める前に、医師は衣笠の名を呼んだ。医師と衣笠はあっという間に扉向こうに消えた。
扉が閉まったのを確認して、主人は執事の元に駆け寄ると、強く抱擁した。突然のハグに驚愕したのか。執事は、されるがままだ。
「…生きていて、よかった。」
主人がしみじみ言葉を吐き出すと、執事はそっと紅貴の身体を離しにかかる。
「…申し訳ありません、御心配をおかけしてしまって…。あっ、アイスも溶けてしまったらしくって…。」
紅貴は顔をくしゃくしゃにしながら、患者の手をとって言いきかせる。
「…謝るなよ!!…頼むから、謝るな。アイスなんて、お前が無事ならどうでもいいから。」
背後に立つ牧原が、肩を竦めた気配がした。
「…坊ちゃまもこう言っているし、謝るよりはやく身体を治しなよ、漆君。」
「はあ…。」
漆が曖昧な返事をした、矢先だった。病室の扉が開く音がして、中から衣笠が顔を出して、紅貴へとちょいちょいと手をこまねいた。
「…紅貴様、ちょっと。」
「へ??オレ??」
牧原さんじゃなくて??、と疑問に思いながらも紅貴が病室の外に出ると、扉に身を隠した衣笠は腰に手をあててみせた。
「…紅貴様、漆君が何に悩んでいるか知っている??」
漆の悩み事について、覚えのある主人は間抜けな声をあげてしまう。
「へっ??」
漆の悩み事はきっと自分へのストレス…と思いかけ、主人は思い直す。…否、そう考えたから紅貴はしばらく大人しくを心がけたのだ。それより、と紅貴は背を伸ばす。
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