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ロープで首を括った漆の痩躯は、空中で激しくぎこりぎこりと上下に揺れた。
紅貴は一瞬声を失ったが、目を剥きながらも執事の身体に近寄ろうとした。直後、梁に通されていたロープがぶちりと切れる。漆の身体が落ちてくる。主人は両腕を広げ…二つの身体は折り重なって床に倒れ込む。衝撃から、辺りに土煙がもうもうと舞った。
紅貴は小屋の床に大の字になって寝そべっていた。激しく揺れる裸電球の光を眺めながら、終わりだと思った。…刹那。
「…っが、げほっげほっ…!!」
自分の胸の上…死んだと思った人間から聞こえてきた咳き込みの音に、不意に紅貴の目が熱く潤む。安心してはいけないとわかっているのに、ダメだった。主人は何とか上半身を起こして、死の淵から生還した従者を腕に抱きしめて介抱する。
「…馬鹿野郎、助けを呼ぶんならもっとちゃんと口にしろよ!!オレはお前の主人だろうが!!」
酷く咳き込んでいた漆は、どこか生気のない瞳で主人を見上げると途切れ途切れに呟く。
「…ロープ…腐って…たみたい、です。…庭師に…ここは備品置き場で…っごほ、ゴミ置き場じゃないって…注意、しないと…っげほ!!」
「もういいっ!!…いいから、喋るな。」
「お願い。」
すっかりしゃがれた声で、従者は主人の耳元にそっと囁く。
「いっそのこと…、 …!!」
主人は静かに目を剥く。すっかり困惑して漆を見つめ返すが、彼は意識を手放した後だった。…規則正しく胸が上下しているので、気絶しているだけなのだとわかる。
数分後異変を察したメイドの東がやって来るまで、ポロポロと涙を流しながらも紅貴はびくともせず従者を抱擁し続けていた…。
自殺未遂の後、漆は救急車に乗せられて病院に運び込まれた。ロープの腐敗が進んでいて、すぐに千切れたため命に別状はないとのことだったが、前回入院した経緯も手伝って、経過観察を兼ねてまた一泊するよう医者に勧められたという。
紅貴は疲弊しきって、丸一日自室に閉じこもった。漆が助けを求めていた夢を忘れていた点について自責の念にかられるが、彼が死にたいと切望するほど弱っていたのを知って更に衝撃的だった。ずっと一緒にいて、欠片も気づけずにいた。
使用人達は年若い執事はもちろん、発見者になった主人の身も心配したが、自室ではあるものの三食口にすると少しは安堵したらしかった。
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