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また、執事のいない一夜がやって来た。…今度こそ、紅貴は悪夢を見なかった。目覚めた時、紅貴は絶望と共に確信する。あの悪夢は、きっともう二度と見ないだろう。
再び執事代行役に任命された衣笠が紅貴の自室を巡り、窓のカーテンを開けていく間に主人はてきぱきと身支度を整え、メイドに言い放つ。
「…漆に会って、自殺に至った詳しい話を聞きたい。病院の面接は何時から開いていたっけ??」
衣笠は…不意に俯きがちになって、言葉に詰まる。らしくない馴染みのメイドの行動に、紅貴は手を止めた。
「…衣笠??」
続けて、衣笠はおずおずと主人を見遣る。…いつもの衣笠ではない。柄にもない様子に、主人は敏感に状況の変化を感じ取った。
「漆に、何があった??」
まさか病院で、すでにひと悶着あったのか。訝しがる主人に、衣笠は首を横に振る。
「いえ…。それが…。」
衣笠は胸の前で手を合わせ、もぞもぞと落ち着きがない。主人は追及の手を緩めない。
「はっきり言ってくれ。いつもの衣笠らしくないな。」
「…隠していたわけではないんです。でも…っ」
言いかけて、衣笠は口を噤んだ。それから、意を決した顔で彼女は語りだした。
「…漆君、今日はお父さんに…執事長に連れられて、午後からお見合いに行くんです。だから、それまでは誰にも合わせるなと執事長に命じられていまして。」
「お見合い??」
紅貴の血相が悪くなる。身体が勝手にずんずんとメイドに詰め寄っていく。口調が制御できなくなり、恫喝めいてしまう。
「何だよそれ!!…オレは漆が見合いするだなんて一言も聞いちゃいないぞ!!漆の主人はオレだろうっ!!何で今までみんなで寄ってたかって黙っていたッ!!」
背後で扉が開く音がしたかと思うと、主人とメイドの間に牧原が割り込んでくる。牧原は衣笠を庇うように佇むと、面と向かって主人を軽く睨みつけた。
「坊ちゃま、衣笠さんだけ責めたって仕様がないだろうっ!!…俺達だって坊ちゃまに言いたかったけど、婚約を控えていたあなたにはどうしても伝えられなかったんだ!!」
それに、と牧原は必死に捲し立てる。背後で震える衣笠は、今にも泣きそうな表情をしていた。
「無責任と詰られるのを承知で言うが、坊ちゃまは漆君から聞いているものとばかり思っていたんだ!!…漆君が倒れる前、彼は真夜中に父親と激しい口論を繰り返していた。これはあくまで想像だが、お見合いの件についてだろう。執事親子は燈さん…旦那様と坊ちゃまに迷惑をかけないよう人目を避けてケンカしていた。でもっ、あなたと漆君の仲なら、知っているとばかり思い込んでいたんだ。」
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