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俺。黒木広斗、24歳。
ごく当たり前なサラリーマン、は表向き。
本当は片っ端から男を食いまくってるゲイ。
そんな俺を勘当していた父が他界した。
俺はゲイだと中3の時に両親にカミングアウトした。
高1から俺は学生寮に入らされ、それ以来、家族と会うのはもっぱら兄妹のみだった。
しばらくの病院での闘病中に見舞いに行っても父は俺と会おうとはしなかった。
父より先に旅立った母と今頃、空の上でどんな会話をしているんだろう。
俺は3人兄弟の真ん中。
兄、27歳、優斗、妹、真由、20歳。
真由は父の遺体の入った棺桶の前で泣き崩れ、優斗も男泣きしていた。
俺だけが不思議と涙が出ない。
制服姿の男の子が神妙な面持ちで父に手を合わせていた。
彼が振り返ると目が合い、彼は会釈した。
お通夜の際の料理やタクシー、ホテルの手配なども兄や妹に任せっきりになってしまった。
俺は親族に頭を下げて回った。
先程の制服姿の少年が大人たちに挟まれ気まずそうにジュースを飲んでいる。
「広斗くん、慶太を相手してやってくれんね、大人ばかりだし、この子も手持ち無沙汰みたいだけん」
慶太、ていうのか。
「広斗の従兄弟とよ、しばらく会ってないから忘れとるどけど」
俺がゲイだということは亡き父と母しか知らない。
「わかりました、僕で良ければ」
慶太は黒目がちなつぶらな瞳で俺を見上げた。
「案内でもしようか、なにもない所だけど」
「うん」
慶太と実家周りを散歩した。
「ホントだね、なんもない、田舎」
「だね、慶太も東京」
「うん、あ、この度は...」
俺は吹き出して笑った。
「子供がそんな挨拶しなくっていいよ」
「でも...初めてで、こういうの」
川のせせらぎと木々が揺れる音。
「どんな気分?」
「どんな、て」
「...ごめん、失礼なことを」
「構わないよ、そっちの方が子供らしい」
一瞬、空気が変わった。
「子供じゃないよ、もう18だし」
「高3?」
「そう、広斗さんは?」
「24、俺は東京で会社員」
「...ふーん、ねえ、川、見に行こうよ」
初夏になる頃だった。
川淵に腰掛けると、慶太は制服のズボンの裾を捲り、川に足を入れて涼んだ。
「不思議だけど、悲しくもなんともない、ただ...なんていうのかな」
隣の俺を慶太が見つめる。
「無気力。いつもの事だけど」
「俺はどんな気分になるんだろ」
「親と上手くいってないの?」
「別に普通。ただ、今、進路のことで揉めてる」
「進路か、懐かしいな」
「広斗さんは大学行った?」
「行ったよ、行きたくないの」
「うん。勉強、もう飽きたから仕事したい」
俺は笑った。
「俺は慶太の好きにしたらいいと思うよ。慶太の人生なんだし。社会人になって大学行きたい、て思えば、通信なり夜間なりあるんだし」
「行けって聞かないんだ、だから反発したくなる」
「そんなもんだよな。ちゃんと飯は食えたか?」
「あんまり。人が死んだってのに酒飲んでご馳走食べて信じられない」
純粋な子だな、と思った。
「だったら、何処か食べいくか」
「いいの!?」
「車で来てるし、でも夜には帰らないとな、明日があるし」
「明日、て?」
「葬式」
じっと俺を見つめた。
「財布と車、取ってくるから待ってろ」
そう言って、俺は1人、一旦、実家に引き返した。
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