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捜索2
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高橋が経験したことのない、恋愛するという感覚。それが分からない以上、このコメントに返信ができない。しかし見る方向を変えることにより、すんなりと答えが出たりする。
心よりも躰――すなわち性的対象であるかどうか……。
相手がゲイなら問題ないことだが、ストレートの場合、同性にむやみやたらに躰を触れられるのは嫌悪感に繋がる。自分の性癖を隠しながら、相手の反応を窺うことは結構至難の業(わざ)だ。
困難なのはそれだけじゃなく、恋は盲目あるいは恋は麻薬と言ったもので、人は恋心を抱く相手を見ると脳の一部の領域が活発になり、判断を含む多くの部分の機能を緩めるという実験結果が、海外の大学で出ている。その理由は、脳がより生殖活動に集中するために判断能力を鈍らせるらしいというんだから、結局人間は獣と一緒ということだ。
それゆえに、書き込みした高校生も恋をしたことにより判断能力が鈍り、他の部員と同じように先輩が触れながら指導しているにもかかわらず、見誤っている可能性がある。
そう高橋は判断したのだが――恋に夢見る若者に現実を突きつけるなんて、そんな無慈悲なことをしないさと苦笑しながら、当たり障りのないコメントを残しておいた。
『まずはその先輩がゲイであるかどうか、確かめることが先決でしょう。先輩が君に触れた数だけ、同じように接触してみては? 嫌がる素振りを見せずに先輩が接してきたら、脈があるかもしれませんよ』
あわよくばこの高校生が個人的に、高橋にアプローチをしてきて、直接逢いたいと申し出たなら、手取り足取りいろいろ教えてあげるのにという下心でコメントしたなんて、誰も知る由がない。
以前贔屓にしていたサイトは地域を絞り込み検索することができていたので、相手へのアプローチがしやすかった。しかし県内限定のこのサイトにはその機能がなく、仲良くなっていざ逢いましょうとなっても、互いが県の端同士だった場合は、頻繁に逢うことは無理だと分かっていた。
そんなサイトではあるが、高校生の書き込み以降、他のユーザーも自分の抱えている悩みを打ち明けはじめ、出会い系の書き込みがぐんと減っているからこそのチャンスだった。
獲物が引っかかりそうな場所へと丁寧に糸を張り巡らせ、蜘蛛の巣を作る蜘蛛のように、目に留まった悩みを打ち明けている書き込みに、高橋は積極的に返信していった。自分好みに調教するなら、近場じゃないといけないという確率を、少しでも上げなければならない。
ゆえに説得力のある理論を交えながら、親切丁寧にコメントを書き込んだ。
あくまでサブポジションのサイトなので、あまり期待せずに、メインのサイトを中心に書き込みをしていたある日――。
サイトからメッセージが1通届いていると、メールが着ていた。喜び勇んで記載されたページに飛ぶと、メインのサイトじゃなくサブのほうで、高橋の気持ちが天国から一転、地下へと埋没されていった。
丁寧に返信したせいなのか、皆さん揃って悩みが解決してしまい、その後ハッピーエンドを迎えているらしく、『ありがとうございます』のメッセージばかり届いていた。
どうせ今回も同じだろうと、苛立ちながら手紙のマークをクリックする。初めましてからはじまる文章を、ため息混じりに頬杖をついて読み進める。
『初めまして。いつもサイトを見ているはるといいます。自分と同じような悩みを抱えている人に、的確なアドバイスをしているコメントを読んで、とても感動しました。人生経験がそうさせているのでしょうか?』
自分のことを多く語らずに、相手の情報を仕入れようとするこの感じ。サイトで個人的なやり取りに慣れた人間なのか、あるいは無鉄砲な若者なのか――いずれにせよ、向こうの情報をここぞとばかりに引き出してやろうじゃないか。
ここから高橋が培った、ネットでの話術が展開されていく。
相手からの情報を引き出すには、自分の情報を多少なりとも晒さなければならなかった。
現時点で向こうが知っているのは石川という偽名と、同じ県内に在住していることのみ――年齢を若く設定して向こうと同年代だった場合、昔話に花が咲いてしまった際にしくじる可能性があるので、あえて実年齢を公表する。
『はるさん、初めまして。石川です。サイトに書き込んだコメントについて、わざわざ感想をいただきましてありがとうございます。
20代後半という年齢なもので、いろいろ苦労をしていることもあり、悩んでいる方の手助けになれるならとアドバイスしています。はるさんも何かしら、悩みを抱えているのでしょうか』
他人の悩みに対し、積極的にアドバイスしている高橋にアクセスしてくる時点で、悩みを抱えているのが明白だからこそ、語りかけるように訊ねて、相手の情報を引き出す。
あらかじめ考えていた、あっさりしたコメントを書き入れ、微笑みながら送信ボタンを押す。
悩みが深ければ深いほど、間違いなく返信は早いだろう。だがいずれにせよ、サブのサイトのユーザーを相手にするよりも、引っ掛けやすいメインから獲物を探していかなければ。
この日はサブのサイトの書き込みに目を通さず、以前メインで自分に積極的に接触してきたユーザーとの会話を楽しんだ。住んでいる場所も適度に近かったため、逢う約束をしてから会話を終え、サイトの書き込みにしっかりと目を通してから就寝した。
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