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逢瀬2
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目の前で整った顔を歪ませる青年の表情を、高橋は上目遣いで見つめつつ、親指に柔らかい舌をねっとりと絡ませ、音を立てて吸い上げてやる。
「あっ、ぁあ……」
青年は声にならない声を出しながら、なんとか抵抗しようとする。そんな力を無力化するために、高橋は青年の手首の内側を感じるように撫で擦った。
「いっ石川さん、止めてください」
「これよりも気持ちのいいコト、俺なら教えてあげられるよ」
高橋が瞳を細めて低い声で告げると、青年は息を飲んであからさまに狼狽える。
「これよりもって……」
「するかしないかは、はるくん次第。どうする?」
選択権を委ねてから、掴んだ手を解放してあげた。慌ててそれを引っ込め、テーブルの下に隠す控えめな青年の様子はまるで、フルコースの前菜のようだと感じた。
高橋は先ほど触れた、青年の柔らかくてしなやかな肌を思い出し、心の中で舌なめずりをする。早くメインディッシュを食わせろと答えを急かそうとした矢先に、青年が観念した表情を浮かべながら小さく頷いた。
それを目の前でしっかりと確認してから、静かに席を立ち、恥ずかしそうに頬を染める青年の表情を見つつ、肩にそっと腕を回してやった。
「はるくん、行こうか」
高橋に促され、一緒に喫茶店を出る。途中で帰ると口にするんじゃないかと内心冷や冷やしたが、青年は黙ったまま、少しだけ離れているホテルに向かった。
ホテルの部屋の鍵を開けて青年を先に中に入れた高橋は、おどおどしているひょろっとした躰にいきなり抱きついてみた。
「ひいっ!」
妙な悲鳴を上げると、青年よりも小柄な高橋の腕を強引に振り解き、首をキョロキョロ動かして後ずさりする。大きな躰を震わせ、怯えまくるその姿が可愛らしくて、腕を掴んで逃げないようにしようとしたら。
「ごめんなさいっ、先にシャワー浴びてきます!」
近づいた高橋の躰に体当たりして、思いっきり突き飛ばし、すぐ横にある扉を開けて中に閉じこもってしまった。
「ここに来て、怖気づいてしまったということか……」
高橋としては、どれくらい緊張しているかを確かめるべく、突然青年に抱きついたのだった。包み込んだ腕の中で青年の体温がみるみるうちに下がり、ほどなくして小さな震えが伝わってきた。
宥めようとして手を出したら、まんまと逃亡されてしまった。青年が逃げ込んだ向かい側にも同じ扉があったので、ため息混じりに開けてみると、こじんまりとしたトイレがあった。シャワーを浴びると言って高橋の魔の手から上手くすり抜けた、美麗な青年の勘の良さに笑うしかない。
踵を返してバスがある扉の前に立ち、ノックしてやる。
コンコン!
きっと今頃青年は膝を抱えて、震えながらここに来たことを激しく後悔している最中だろう。
「は、はい?」
「ラブホテルの休憩時間は、永遠じゃないよ。さっさとしないとこの扉をぶち破って、はるくんの躰を洗いに行くかもね」
「なるべく早く済ましますっ。すみません!!」
ひどく上擦った声でなされた返事に、高橋はどうしようかと思案した。悩んでしまう理由は、上着のポケットに入っている二種類の薬のせいだった。
備え付けの冷蔵庫を開けて、飲み物は何があるのかを確認してみる。お茶にミネラルウォーター、サイダーとオレンジジュースの4種類があり、青年の人柄や今の精神状態を考慮して、サイダーが入ったペットボトルを手に取った。
次の瞬間、耳に聞こえてくるシャワーの水音だけで、高橋の下半身が熱を持つ。バスの扉を壊して中に入り、手を出したくなる気持ちを抑えるべく、テーブルの前にある椅子に腰かける。別なことを考え、卑猥な気持ちを取り除くことに集中した。
黙っていても、青年の躰を弄ぶことができるのだから――。
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