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逢瀬7
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***
ラブホテルの一室で、どこか不満げな顔をしている青年を高橋は見上げながら、正直寝心地がいいとは言えない膝枕で寝ころんでいた。
これが7回目の逢瀬――毎回呼び出して行為に及ぶことはいろんな意味で楽しいが、そればかりじゃ飽きてしまう。
「やっと中で感じはじめたのに、卑猥なことをしないなんて躰が疼いてしまう。なぁんて考えていたりする?」
「そんなこと……考えてないです」
今日もここで嫌々ながらも卑猥な行為をするんだと考えにふけった青年の気持ちを先読みし、肩透かしを食らわせるべく、こうして膝枕をするように命令した。行為に及ぶことよりも楽なことを言いつけたというのに、青年の顔色が一向に優れないままなのは、やはり気になってしまう。
「本当かなぁ? 俺様の大事なところを石川さんの口でしゃぶって、とことん感じさせてほしいとか思ってない?」
「思っていないですっ!」
ぶわっと頬を染めあげて、そっぽを向いて言い放った。
聞き流すことができずに初心な態度をとる青年がかわいくて、つい意地悪なことばかりを口にするのは、Sっ気たっぷりの自分の性格を表わしているみたいだと思わずにはいられない。しかもこんなことをしていたら、どんどん嫌われるのが手に取るように分かったが、脅して関係を強要している時点で嫌悪されているのだから、嫌いに拍車がかかったとしても高橋自身は関係なかった。
でもたまには最初に出逢った喫茶店での会話のように、笑顔を交えながら話がしてみたいと思ったりもする。まぁここまでこじれているので、それが無理なことは理解していた。
「……石川さんは好きでもない相手とこんなことをして、なにが楽しいんですか?」
「なにを言いだすかと思ったら。はるくんが好きだよ」
「えっ!?」
「あ、訂正。はるくんの躰が好きだよ。俺との相性もバッチリだしね」
他の男に触れられる前で良かったと、肌を重ねるたびに思わされる。誰も開発していない場所を探るように触れるたびに、嫌だと口にしながらも憎らしいくらいに青年の躰がいい反応を示した。
元々の感度がいいんだろう。狙い通りのいい玩具が手に入ったことに酔いしれていたいというのに、現実はそこまでうまくはいかなかったのである。
「こちらとしても、全力でお仕事を手掛けさせていただきますよ。勿論、提示した額でやらせていただきます」
信じられない言葉に高橋をはじめとして、部下全員が困惑の表情をありありと示したというのに、バカな上司はそれを完全に無視して、クライアント側の要求で話を押し進めた。
「橘さん、ちょっと待ってください。先に藤田鋼業の仕事を手掛けなければならないので、その納期ではどう考えても無理なんですが」
クライアントの顔色を窺って、厄介な仕事をしようとした上司の動きを、高橋が止めにかかった。かなりタイトな状態で仕事をしている手前、口を挟まざるをえなかったのである。
(しかもこちら側が提示した額よりも安価すぎる仕事を、誰が喜んでやるっていうんだ)
そんな心情を悟られないように、高橋が声を押し殺したというのに、そんなの知ったこっちゃないという感じで上司がため息をついた。
「死ぬ気でやればできるだろ。ちっぽけな藤田鋼業よりも、ご新規様を優先させなくてどうするんだ」
(コイツ、大口取引先をちっぽなんて言うところをみると、仕事の内容を全然見てはいないな)
突如現れた仕事のできない上司のせいで、青年との逢瀬の時間がなくなってしまった。お蔭で高橋は毎晩、残業の日々だった。
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