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頂きに立つもの5
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王の手がアメリアの肩に触れ、その身体を仰向けに転がす。少し乱暴なそれに、アメリアは大きく顔を歪めて呻いた。
彼女の傷は、致命傷ではあるがすぐに死ぬようなものではない。王は、そこまで考えた上で行動している。
アメリアの腹から突き出ている剣を握った王が、唇を開いた。
「帝国の計画について、知っていることを全て話せ」
感情を窺わせない平坦な声が、アメリアの耳に落ちる。脂汗を滲ませて荒い呼吸を繰り返す彼女は、しかしうっすらと微笑み、ゆっくりと首を横に振った。そんな彼女に、剣を握る王の手に力が籠る。そして王は、握った剣を腹に捩じ込むようにして回し、彼女の傷を抉った。
あまりの痛みに、アメリアの細い喉から悲痛な悲鳴が上がる。しかし王は、表情を変化させることなく同じ問いを繰り返した。
「今後の帝国は、どう動くつもりなんだ。答えろ」
だが、アメリアは再び首を横に振る。か細い声が小さく、知らない、と零した。
「この日のために、わざわざ十年前から王家に潜り込んだんだ。何も知らないなんてことはないだろう」
王の手が動き、アメリアの傷口を広げていく。一見すると乱暴な手つきにとは見えるそれは、しかしその実、誤って彼女をすぐに死なせてしまわないようにと細心の注意が払われていた。
再びアメリアが悲鳴を上げたが、それでも彼女は力なく首を横に振る。頑なに情報を秘匿しようとしているように見えるその姿勢に、クラリオは思わず一息に腹を裂いてしまい衝動に駆られた。
ぎり、と歯噛みした王が、アメリアの腕を乱暴に掴む。そしてそのまま、王は力任せに腕を折り曲げた。肉の中で鈍い音が響き、アメリアの細い腕があらぬ方向に曲がる。同時に、一際大きな悲鳴が部屋に響いた。
「言え。帝国は、次に何をするつもりなんだ」
だらりと力をなくした腕を床に投げ、王が再び問う。だが、それでもアメリアは首を横に振るだけだ。
そんな短いやり取りが、何度続いただろうか。両腕を折っても、耳を削いでも、アメリアは悲鳴を上げるだけで何も言わない。度重なる苦痛にぐったりとした彼女は、しかしそれでも王に問われる度、彼に対して微笑みを返した。
王もまた、未だ解除することが叶わない大魔法のせいで徐々に消耗し、意識が朦朧とし始めていた。それでも倒れず正気を保っているのは、偏に彼の気力のなせる業だろう。
だが、今度は腕を斬り落とそうとアメリアの肩に刃先をあてがったところで、とうとう王の表情が大きく歪んだ。歪んでしまった。
そしてその唇から、言葉が零れ落ちる。
「…………頼むから、言ってくれよ……」
小さな声に、アメリアが僅かに目を見開く。
霞み始めた彼女の視界に映る王は、まるで母の手を見失った幼子のような顔をしていたのだ。
よく見れば剣を握る王の手は震え、その瞳にはアメリアよりもずっと色濃い苦痛が満ちていた。
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