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頂きに立つもの7
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「…………魔導、使えるとは思ってなかったな、俺……」
やや弱い声が、そう零す。この期に及んで、王はまだアメリアから情報を聞き出そうと考えていた。か弱い彼女が死んでしまう前に、少しでも何かを得なければと思ったのだ。
そんな王の内心に、アメリアは気づいたのだろうか。それは判らないが、彼女は少しだけ困ったように微笑んだ。
「むりも、ありません。わたし、まどう、つかえること、おもいだした、の、きのうの、こと、でした、から……」
静かな声に、クラリオは彼女へと手を伸ばした。その指先で優しくそっと触れた頬は、熱を失ったかのように冷たかった。
「……記憶、弄ってたの?」
「……よく、わからないん、です。でも、あなたに、はなしたことは、すべて、しんじつだと、おもって、いました。だけど、やくめを、おもいだし、て……」
「……うん」
「…………もし、うそを、ついてしまって、いたなら、ごめん、なさい……」
「……うん」
ようやくアメリアが話した内容は、思っていたよりもずっと無意味なものだった。ただ、記憶を改竄した上でこの国に送り込まれた刺客であるということが判っただけだ。そんなことは、彼女を見ていれば想像がつく。王が知らなければならないのは、もっとその先にある話だった。
だが、これ以上は無理だ。熱が失われていく身体には、もう生きる力など残っていない。いくら死なせないようにと配慮しようとも、最初の一撃に度重なる拷問が加われば、こうなるのは当然のことだった。
だからだろう。アメリアがもうすぐに死んでしまうと判ったから、だから、クラリオの目から、一粒だけ涙が落ちた。そして、つい口にしてしまったというように、か細く震える声が零れる。
「…………おれ、まもるって、いったじゃん……」
その言葉に、アメリアは一瞬、何を言われているのか判らなかった。だがその意味を理解した彼女は、咲きほころぶような笑みを浮かべた。
クラリオは、守ると言ったその言葉を信じなかったことを責めているのだ。たとえ帝国を裏切ったとしても守ってみせるから安心して欲しいという言葉を、信じて欲しかったと言っているのだ。
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