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目覚め6
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「そう警戒しないでくださいよ。我々のようなか弱い魔導師は、こうして周到に用意しなければ貴方たちと対峙することもできないのですから」
そう言ってデイガーがぱちんと指を鳴らすと、彼の背後に空間の歪みが生まれた。そしてそこから、二体の巨大な生き物が現れた。四階建ての建物すらも越える高さのそれは、顔面一杯に大きな目がある、二足歩行型の魔物だった。
デイガーの空間魔導によって出現したその魔物たちは、デイガーの姿を認めるや否や、彼に向かって足を振り上げた。味方であろう魔物の攻撃に、しかしデイガーは驚いた様子もなく、魔物の一蹴りを黒い竜の背に跳び乗って回避してみせた。そしてそのまま空へと逃れたデイガーが、地上にいるアグルムに向かって叫ぶ。
「失礼! このウスノロどもは、使役主である魔導師を殺された憐れな魔物でしてね! 見境がないのですよ!」
そう言ったデイガーの口元が歪んだ笑みを象っているのを見たアグルムが、忌々しそうに舌打ちをする。
使役主を失った魔物の危険性については、円卓全ての国で共有されている。一ツ目の魔物がデイガーを狙ったのは、デイガーが最も近い場所にいたからだ。その彼が空に逃れたとなれば、当然次に狙われるのは自分たちである。
巨大な目玉たちが、ぎょろりとアグルムを捉えた。それと同時に、アグルムも風霊の名を叫ぶ。だが、
「っ!?」
普段あまり変化を見せないアグルムの表情が、驚愕に染まった。しかし、彼が起こった事象に気を取られたのは一瞬。すぐさま頭を切り替えて曲刀を横に構え直したところで、魔物の強烈な蹴りが彼を襲った。間一髪でそれを避けたところに、今度はもう一体が拳を振り下ろす。後ろに跳んでそれを避けたアグルムは、眼前に落ちた拳をすぐさま刀で斬りつけた。
そこそこの深さを以て肉を抉った刃に魔物が低く唸ったが、所詮手の甲の一部を斬っただけに過ぎない。大したダメージにはならなかっただろう。だが、そこで生まれた隙を利用し、アグルムは少年に向かって叫んだ。
「精霊がいない!」
短い言葉は、少年がアグルムに対して抱いた違和感の正体を悟らせるに十分すぎた。
風霊の名を呼んだのに、アグルムはなぜ風霊魔法を使わずに身一つで魔物と対峙しているのか。その疑問の答えが、アグルムの一言にあった。
この世界の魔法は、世界中に存在する精霊の力を借りて発揮されるものがほとんどだ。そしてアグルムは、その精霊がいないと言った。
(つまり、この空間には何故か精霊がいないから、アグルムさんは魔法が使えないんだ……!)
アグルムだけではない。少年がいる世界のおよそほとんどの生き物が、この空間では魔法を使えないことになる。
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