アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
エピローቖ₩⸿⸎ⶼᚙ 8
-
三人で連れ立って部屋から出て、長い廊下を進む。十日ほどしか過ごしていない王宮だが、自分の家でない割には、それなりに居心地が良かったような気がする、と少年は思った。
二人の、というよりも少年の出立を惜しむ王妃たちに挨拶をしてから、外に出る。大きな正門をくぐった先には、鞍を設置されて、いつでも飛び立てる様子の騎獣が待っていた。
鱗に覆われたやや細身の身体を持つこの騎獣は、黄の国でも機動力が求められる部隊が使う種類の獣だ。戦闘能力はあまりないが、その代わりに速度が出る。
騎獣に荷物を固定し、あとはもう二人が乗るだけだとなったところで、少年はちらりと後ろを見た。騎獣が飛び立つときの風に煽られないようにか、黄の王を含む王宮の人々は、少し離れた位置に立っている。恐らく、この距離ならば小さな声は届かないだろう。
それを確認した少年は、ぴたりと動きを止めた。そんな彼に、今にも騎獣に乗ろうとしていた赤の王が、首を傾げる。
「キョウヤ?」
名を呼ばれた少年の肩が、僅かに跳ねた。顔を俯けている少年は、何度か赤の王を見上げようとして、途中でまた俯いて、ということを繰り返したあと、そっと深い息を吐き出す。そして、今度こそ赤の王を見上げた。
「ぁ、あの……、」
最初の一言が少し裏返ってしまったのは、極度の緊張からだ。
「……あの、ね、……僕、その、……貴方、に、言いたいことが、あって……」
騎獣に乗っている間は、正面から王を見ることができない。途中に挟まれるだろう休憩の時間も、休むことに専念すべきで、余計な会話をするのは避けた方が無難だろう。紫の国に行けば少しは落ち着けるかもしれないが、状況を考えるに二人きりにして貰えるとは思えなかったし、そもそもそれでは先延ばしにし過ぎだ。
だから、多分今が良い。いや、もう今しかない。
きっと、本当ならもっと早く言うべきだった。気づいた時点で伝えるべきだった。けれど、こういうことは初めてだから、上手くタイミングが掴めなかったのだ。何度も何度も機を逃して、気づいたら夜が過ぎて朝が来て、出発のときになってしまっていた。
歯切れ悪く言葉を紡ぐ少年に、赤の王は何も言わない。遮ることも急かすこともなく、とても優しい顔をして、少年を見下ろしている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
194 / 197