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永久に朝が来なくて夜であればいいのに
日が昇って当たり前のように朝が来る
そして俺達にも朝が来た
「ん…」
「あ、悪ィな起こしたか?」
腕の中から小さな唸り声が聞こえて覗き込めば、まだ眠たそうに目を擦る善逸の顔
窓から差し込んできた日差しで目が覚めた顔に日が当たっている
「いえ……もう朝ですか」
「ん、そうだよ」
さっき寝たばっかな気がするんだけどな、とか呟いて欠伸をして甘えるように躯を密着させてきた
よしよしと髪を撫でて額にそっと口付けを落とす
「おはようさん」
「おはようございます宇髄さん」
「今日はもう帰んのか?」
「んー早朝稽古があるんでもう少ししたら出ないと…キツいから行きたくないけど任務もあるんで」
「そっか。ならいっその事、」
このまま何処にも行かずに此処に居ればいいのに。身の安全は保証するし
とか思わず言いそうになるが飲み込んだ
断られることが分かってるから
「うん?何ですか?」
「いや、何でもねぇよ…頑張ってこいや」
「はい」
また気だるそうに1つ欠伸をする
そうやって無防備に欠伸する姿さえ愛しい…朝日に当たって光るボサボサの髪さえ綺麗に見える
「朝飯はどうする?」
「食べてる時間ないんで大丈夫です」
「不健康」
「だって遅刻出来ないし…いや、その前に髪!どうしよう直んない!」
「おーおー、派手に爆発してんなァ…ある意味可愛いからこのままで良くね?」
「だっダメだよ隊士の中には女の子だっているんだから!宇髄さんどうにかして!」
「はいはい」
それなりには鍛えてはいるがまだまだ未発達な小さな躯
そんなんでよく鬼相手に闘えてんなと何時も思う
繊細で脆そうで儚そうだから、いつか泡のように消えてしまうんじゃないかって感じる時がある
本当は何処にも行けないように閉じ込めて縛り付けときたいけどそういう訳にはいかない
寝癖が直らないとギャアギャア騒がしい善逸の髪を櫛でといて整えてやる
「で、終わったら帰ってくんの?」
「今日は無理、かな…仕事次第だけど多分遅くなりそうだから炭治郎達と蝶屋敷に戻ると思います」
やっぱ仲間と居るのが一番だよな
何処にも行かずに此処にいる、なんて選択肢は俺の勝手な期待
「善逸」
「ん?何ですか?」
「出先に綺麗なお姉さんが居ても浮気すんなよ?余所見せず真っ直ぐ俺の所に戻って来い」
「何それ…そういうのはお嫁さん達に言うことだよ」
「いいから聞けよ。その任務が済んだらお前に話がある」
「そんな真顔で改まってどうしたんですか?何か怖いんですけど」
「大事な話だから聞いて欲しい」
「生きて帰れたら寄りますよ」
「どんなに遅くなっても此処で待ってるから」
「分かりました。そんなに念押ししなくても宇髄さんにはお世話になってるから話くらい聞きますって」
「アイツの代わりになれてんのならお安いご用だ」
大事にしてた相棒の雀に先立たれたお前の空白を埋めるくらいどうってことない
俺に出来るのは寂しがってたコイツの傍に居て、一緒に寝て、おやすみやおはようを言ってやることくらい
一緒に朝を迎えて見送って、無事に帰って来るのを待つの繰り返し
別に俺達は深い仲にある訳ではない
ただずっと泣いてたコイツを放っておけなくて雀の代わりに傍に居て寄り添ってやるだけ
…それだけでも俺としては必要とされてるなら十分だった
ただ1つ不満を言うなら
「無事に戻って来いよ」
「極力は努力します」
「んーじゃ、また後でな」
「はい、また後で」
朝、お前がいなくなることが嫌だ
朝も昼も夜もずっと一緒にいたい
お前の空白以外も俺で埋め尽くしたい
「はぁー……こんな時代じゃなかったらアイツとの関係も違ってたんだろうな」
お前が出て行った後の閉まる戸の音が嫌いだ
俺とお前の空間を隔てる戸が憎い
ずっとこっち側に居て欲しいのにそれが叶わないのが歯痒い
娶るつもりで寄せていた想いを告げようと決めたが、俺達にまたはなかった
どんなに待っても善逸が俺の元に戻って来る事はなかった
いや、正確には戻って来れなかった
任務中に鬼との激闘で仲間を護る為に犠牲になったと鴉からの訃報と、号泣しながら屋敷にやって来た竈門と猪からの報告で現実を突きつけられる
こんな御時世だからある程度の覚悟はしてたが突然過ぎる…俺より先に逝くなよ
今朝交わしたばかりの何気ない会話が最後になるなんて思ってもみなかった
こんな事になるのならさっさと娶れば良かった…強引にでも引き留めておけば良かった
後悔ばかりが押し寄せるがアイツはもう居ない
だから後を追う事も考えたが、それだと善逸は喜ばないと思って来世に賭けてみる事にした
次にアイツと出逢えるまでは俺の空白は埋まらない
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