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サイダー
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夜になり、俺たちはロープウェーで山を下った。
ちょうど、鵜飼いを見れる時間だったので、川へ入って、鵜飼いの人たちを見ていた。
ルカは、いきなり靴を脱いで、川へ入っていった。
足首を水に浸して、
「ハルもおいでよ。」と、川の中から叫ぶので、俺も、ルカの靴の隣に自分の靴を置いて、おっかなびっくり川へ入っていった。
川は、冷たかった。
岸のほうへ戻り、川の浅瀬を掘って、そこにリュックの中に入れておいたサイダーを取り出し、浸した。
夕方、山のふもとの売店で買ったものだ。
水が奇麗な土地で作られるサイダーは、水のままの色で、澄み切った中に炭酸の泡が、時折浮かんでいる。
そうしてサイダーを冷やしておいて、俺たちは、水を掛け合ったり、ぼやっと鵜飼いの船を眺めたりして、川のヘリで涼をとっていた。
すると、なんと船がこちらへやってくるではないか。
「載せては、もらえませんよね。」と、ルカが船に向かって叫ぶ。
本当、ルカはこういう時、自由奔放だ。
「悪いなあ、仕事だから。」
と、鵜飼いのおじさんが返事してくる。
鵜飼いの船はもう、そこに乗る人や、提灯や、その周りを泳ぎ回る鵜が、はっきり見えるまで近くに来ていた。
「君たち、地元の人じゃないね」
と言われ、ルカはまたはっきりと、
「ええ、関東から来ました、恋人同士です。」
と返事した。
「あー?じゃあ、きみ女の人なの?」
と聞かれ、
「いいえ、僕、男です。男同士だけど、恋人なんです。」と、ルカは堂々と言うから俺は恥ずかしくなってきた。
「あー、…」と、鵜飼いのおじさんも、完全に反応に困っていた。
俺は、ルカと一緒になろうと決めた時、何があっても一緒にいようと決めた。でも、実際にあるのはきっぱりとした戦いじゃなく、困惑の笑顔をどうやってうまくかわすか、という課題と、恥ずかしさだけなんじゃないかと最近思う。
しかも、恥ずかしさは多分、異性カップルでもあったはずだから、実質、他人の困惑顔をどうやってかわすか、とか、自分たちについてどう納得してもらえるか考えるのが、俺たちの課題かもな、と思う。
「まあとにかく、ようこそ。」
とにかく、鵜飼いのおじさんは、問題をスルーすることにしたらしくて、普通に話しかけてきてくれたので、俺は安心した。
「きれいな川ですね。」と、俺も鵜飼いのおじさんに話しかける。
「でも、前と比べて汚れてきてるよ。魚も、年々減ってるしな。」
と、少しだけ心配そうな声が返ってくる。
環境の問題って意外と身近なのかな、と考えながら、俺は鵜を、眺めていた。潜ってみたり、浮かんできたりと、鵜はせわしなく動いている。
このまま魚が取れなくなって、この漁も見られなくなってしまうんだろうか。時代の移り変わり、と言えばそれまでだが、少し、寂しいような気もする。
「じゃあ、もう夜遅いから、気ぃ付けてな。」
と、おじさんが気さくに手を振り、ゆっくりと、鵜飼いの船は川の中心へ向かって滑り出した。
俺たちも川遊びを止めて。岸辺へ戻った。
ルカが、河原へ座るので俺もつられて隣へ座った。
「サイダー飲も。」と、ルカが言った。
二人でサイダーを開けて、飲む。
喉の奥で炭酸がはじける快感と、しんとした涼しさに、鼻歌でも出そうになる。
「二人でうまいもの飲み食いしてると、めちゃくちゃ幸せだ、俺。」
「明日はウナギ食べるよ。」
と言うルカは、出かける直前まで見ていた旅行雑誌のページを思い出しているようだった。
「ウナギはここの名産じゃないんでは…」確か、お隣の県だったような気がする。でもここも、水が奇麗だから川魚はうまいんだろうな。
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