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「てかさ、滝澤は?」
「今日は委員会だってー」
恋人の名前が出た瞬間、先ほどまでのテンションが嘘のように元気のない弱々しい声へと変わっていく。不満があるのか、むすっとした表情から不満が隠せず露になっている。
そんな晴人に敢えて突っ込むことを止める和成。
「また?最近多いな。委員長って結構大変なのな」
晴人の恋人である、滝澤貴文は人気者なのだ。
冷たい性格と良く言われているが、頼まれ事に関しては断らない。真面目というべきか、それが仇となって晴人との時間が削られ、同じクラスに居るのになかなか話すことすら出来ないで居る。
貴文が好きで好きで仕方のない晴人にとっては地獄に居るようなもの。不満の一つや二つ出ても可笑しくはないだろう。
不満ですといっぱいに頬を膨らませて、唇を尖らせる。
「いいんちょー前から忙しそうだったけど、最近さらに忙しくなったみたい」
「ふーん。だから拗ねてるってわけか」
「べ、別に拗ねてないもん。ただ構ってくれなくて…さびしーだけ」
恋人として付き合っているといえ、恋人が急がしのではいちゃいちゃも出来ないのだ。
会話こそしているものの、かれこれ一週間程キスもしていない。と、今の現実を考えてみる。だんだん不満は心の端に追いやられ、次はむなしさと寂しい気持ちでいっぱいになり、目頭が熱くなっていく。
今はきっと、不細工な顔をしているだろう。
いつからこんなに女々しくなったのか、自然と言葉は失われる。
「…お前なぁ」
空気が重くなり無言になってく晴人に、それを制するように空気を壊す。
今にも泣きそうで頼りない顔をする友人に、呆れたように一言言い放つ。
まるで自分に問題があるかのように言う和成に対して、なぜそう言うのかと、首を傾げた。
「…だって、貴文が会えないんじゃ仕方ないじゃん」
「仕方ないじゃないだろ。寂しいとかそういったこと、どうせ本人に言ってないんだろ」
「それは…っ」
図星だった。晴人自身、普段の性格は明るく、行動は緩いためチャライとも言われているが、なかなかのネガティブ思考の持ち主なのだ。
自分が言いたいことも言えないでいる事を、和成は良く知っていた。例外はなく、今回もきっとそうだろう。何も言えずに、委員会や頼みごとで忙しく何処かへ行ってしまう彼を、快く見送っているのだ。
行ってしまう滝澤にしろ、言えない晴人にしろ…まったく持って不器用なカップルだ。ため息が零れる。
「だって…付き合えただけで幸せなことなのに、これ以上の我侭なんて…さみしーとか言ったら、嫌われちゃうかも」
何処まで謙虚になればこうなれるのか、逆に聞きたい位だ。
可愛い事言ってるのだが、これでは先に進めないほか、恋愛も上手くいかないだろう。
恋愛マスターになった覚えはないが、先のことでまたため息が増えた。
「お前ら付き合って結構経ってんだろうが。晴人だって我侭の一つや二つ言う権利はある」
それが恋人の特権ってやつじゃねーの?と、言い方は厳しいものの、優しくまるでウサギのようにしょげてしまっている晴人の頭を撫でる。
当の本人は気づいているのかいないのか、今にも泣きそうな顔で自分を見つめる。
厳しいことを言うのもまた、優しさなのだ。甘やかしてるばかりでは、先には進めない。飴と鞭も必要だろう。
「でも…っ、言ったら嫌われちゃうかもじゃん。…オレ、それだけはいや」
小さくなっていく自身のない声と共に、泣きそうな顔を見られたくないのか、頭を机に伏せて俯く晴人。今はネガティブワールド全開だ。
しかし、ここで怯まないのが友人の根性。
「言ってもないのに結果が分かるなんて、お前は超能力者か何かか?」
「ちがうけど…」
「だったらわかんねーだろ?はるちゃんが可愛く構ってって、そう言ったら滝澤は間違いなく喜ぶと思うぞ」
二人が付き合うまでの過程を和成は見ているのだ。勿論、協力もしている。だから尚更のこと、説得力があるのかもしれない。
励ますように、背中を押してやるのが、自分の役目みたいになっていた。
「…かずがいうなら、がんばってみる」
何度こうやって背中を押してやったかは覚えていないが、大好きな友人が幸せを願って和成は微笑んだ。
「ありがとーかず」
「まーな。俺っていいやつだなぁ、ホント。がんばれよ」
俯いていた顔を上げて、和成の優しさを身に感じながら、決心した。落ち込んでいた時とは違う強いまなざしに和成は、安心したように言い放った。
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