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和成に背中を押されて、引っ込み思案化している自分の今の気持ちが変わってしまわないようにと、席を立つ。目的は当然、恋人である貴文だ。
まだ教室へと帰ってくる兆しはないが、校内と言えど行動範囲は知れている。適当に探せば見つかるような気がした。
たまには恋人の感ってやつを使うのも悪くないだろう。
「オレ、ちょっと行ってくる」
旗から見れば、人に言われて行動を起こすなんて単純なやつだと思われるだろうが、晴人にとっては大事な行動力なのだ。
それを分かっている和成は、何も言わずに頷いて見送る。
頼もしい友人を持ったものだと、他の人から見ればそう思うに違いない。自分だって、当然思っているのだから。
「よし、オレだって……っ!?いいんちょ…っ、え?」
ドアの前まで足を運び、その時予想外のことに声が詰まる。
それもそうだろう。
此処には居ない筈の恋人が居たのだ。仕方のないことではないだろうか。
目的である人物を探せたことについては好都合とも言えるが、笑って「探してた」等といえる雰囲気ではない彼。
冷ややかな視線が自分の視線にと合わされる。
逸らしたい衝動に駆られるが、決して放さないその視線は意図も簡単に晴人の心をも射る。
その鋭い瞳は何度か見たことのある、黒いもやもやを纏った視線。
「仲、良すぎじゃないの?」
「仲て…確かにいいけど、みてたの?」
暫くの沈黙の後、不意に問いかけられる。きっと、友人の和成の事を言っているのだろう。
その一言に、じわりと額から汗が湧き出る。
そうなってしまうほど、今の彼は様子が可笑しかった。
教室には入らず、廊下で壁に凭れ腕を組むその仕草は、最早怖い以外の何者でもなかった。
先程の光景をいつから見ていたのかは分からないが、不機嫌オーラが言わずもがな漂っているのだ。「彼は何故そうなっているのか」そう思っていても、身震いをしてしまうのは今までの過去お仕置きを考えれば、仕方のないことだろう。
「いつからって…。まぁ、兎に角ちょっと来なよ」
「来てって…っ、ちょ、どこに?」
有無は言わせないつもりなのか、力強く手首を握る冷たい手。
瞬時に引かれて、抵抗もなくされるがままに付いて行く。
周りの事を気にした素振りを見せない貴文。違う捕らえ方をすれば、どこか余裕のなさすら感じ取れる行動に、いつもと違う何かを感じ、不安になる。
最後過ぎるさま見た友人の和成は、ニヤニヤと笑っていて、謝っているつもりなのか手を合わせて口ぱくでドンマイと言っているように読み取れ、人の気も知らないで。そう初めて友人を恨んだのだった。
連れて行かれたのは、今は使われていない空き部屋だった。倉庫にもなっているのか、荷物が沢山置かれており、少し古臭い。
委員会かなんかで使っているのだろう、校内に関しては貴文のほうが良く知っている。
「…いたいよ、手」
沈黙を押し殺して、声を上げる。強引に引かれた手首はそろそろと悲鳴を上げている。
それでも力強く握るその手は、晴人を放しそうにない。
「五月蝿い。その口、塞いで欲しい?」
「…っ、なんで。なんでそんなに、怒って…っ!!」
言葉を遮られるように、掴まれた手首ごと身体が貴文の胸へと飛び込む。
有無を言わせない行動に驚く晴人。
視界はいつの間にかきっちり整えられた制服の前で、微かに感じる暖かい体温。
掴まれていた手は離されて、腰に回される腕。
冷たい言葉とは反対に、優しく腫れ物でも扱うかのように、抱きしめられる。
暖かい温もりは、晴人の体温と調和して、全身にと広がっていき、滅多にしないであろう行動に胸が締め付けられ、さらに上がっていく体温。
「ねぇ…どうして泣いてたの?」
どうやら結構前に見ていたらしい貴文は、覗き込むように自分に視線を見下ろす。
泣いていたと知られたことが恥ずかしい、そんな気持ちでいっぱいだった。
もとより、この気持ちは貴文への不満からの気持ちなのだが、そんな事を考えている暇は今の晴人にはなかった。
次第に赤くなっていく頬は、自分でも止められない。
恥ずかしい気持ちを隠すように、胸に顔を埋め、貴文の腰に手を回し、ぎゅっと制服を掴む。
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