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そんな晴人の心境を知らない貴文は、自分の胸へと頭を埋めてしまった恋人に対していい気などするはずもなく、怪訝そうに眉をひそめた。
「どうして黙ってるの?……僕には言えないことだから?」
「そうじゃない」そう言いたかった。しかし、一度塞いでしまった堅い口は、そう簡単には開くことができない。
きっと貴文は友人である和成には言えて、自分には言えないのかと言いたいのだろう。その答えは当たっているようで当たっていない。
本当は貴文本人に言わないといけない事なのだ。
無反応では誤解されかねない。誤解だけはされたくない。頑なに閉ざす口の変わりに、首を数回振って違うと伝える。
「だったら、どうして黙ってるの?言ってくれないと分からないんだけど」
恋人が自分のいない間に泣いていたのだ。それを聞きたいだけ…しかし、本人が言わない限りは解決の一文字すら解けない。
何ともいえない歯がゆさが貴文を襲う。
首は振るが、問いかけには答えない。
そもそも俯いたままで顔すら見せない。
結果的に、これでは埒が明かない。
そしてまた、沈黙が始まるのだ。
当然の事ながら、奥手な晴人を急かした所で状況は変わらないだろう。
かと言って、ゆっくり待ったところで言うようにも見えない。
そうなれば最終手段は一つしかない。
「…あっそ。何もないのなら、僕はもう教室に帰るけど?」
声音が低くなる。と共に、暖かい温もりも同時に離れていく。
教室に帰ろうと晴人を抱きしめていた両手を緩め、引き離そうと後ずさるが、晴人が制服を掴んでいるため阻止される。
「晴人。手、邪魔なんだけど」
「っ…やだ!」
駄々を捏ねる子供みたいに、手に力を込めて離れようとはしない晴人。
最終手段「押して駄目なら引いてみろ」である。
本当に貴文が行ってしまうと思ったのか、置いていかれた子犬のように寂しげな眼差しで見つめる。
うっすらと涙が浮かんでいるように見えるのは気のせいではないだろう。
「オレ…っ」
「なに?」
何かを言いかけ、見つめていたその眼差しを地面の方へと流していく。
なにに対して泣いていたかと聞いているだけなのに、まるで自分が苛めているみたいだと、小さく溜息を零す貴文。
奥手でネガティブな晴人のこと、悪い方悪い方へと思考を張り巡らしているに違いない。
苛めるのは好きだが、この展開は趣味ではない。
「何があったのかは知らないけど、言いたくないなら無理に問いただしたりはしない。でも、そんな顔されたら、ほっとけないでしょ」
「今どんな顔しているか分かる?」そう付け足せば、会わない視線を自分に向けるよう顎を持ち上げる。
涙が出ないようにと堪えているのか、歪んだ顔。そして、絡み合う視線。
「…さみしくて」
消え入りそうで、か細い声。予想もしていなかったその言葉に、一瞬目を見開く。
顎を持ち上げた手を離す。
当の本人は、精一杯の勇気を持って言ったのか、その瞳は潤んでいて、あと少しすれば零れ落ちるだろう。
「それは…最近僕が忙しかったから?確かに放置しすぎたね」
(もしかしたら、非は自分にあったのかもしれない…)
委員会やら何やらで、晴人と最近会えていなかったのは確かだった。
晴人自身も部活動こそ入っていないものの、バイトをしているため、二人の空き時間は比較的少ない。
泣かせてしまったのは自分だったのだ。
だが、言い分があるとすれば晴人にも言えること。
「でも、どうしてそれを言わなかったの?荒井に相談する前に」
晴人の友人である、荒井和成に嫉妬している訳ではないが、どこか気に食わない。
「それは…ごめん」
再び口を閉ざしてしまう晴人。
険悪になってしまう前に、すべてが聞けたら良いが、如何せん恋人はこの調子だ。
「あのさ、僕は別に怒っているわけじゃないんだけど」
恋人に寂しいと言われて、怒る人はまずいないだろう。
だが問題はそこではないのだ。
「晴人、前にも言ったけど。…僕たち恋人じゃないの?」
話そうとしない晴人に詰問していく。
分かってもらわないと困るのだ。
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