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静かなデッドヒート3
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(結婚となったら、互いの実家は絶対に避けて通れない。頭が痛いネタだよな)
「橋本さん、俺ね――」
先のことを考えるあまりにゲンナリしていた橋本に、榊がそっと話しかけてきた。
その声に反応して隣を見上げたら、自分とは違うキリッとした男前の横顔が目に留まる。視線の先は宮本が運転するインプを見つけようと、目を凝らしているように見えた。
「恭介……?」
「俺ね、どうしても譲れなかったんです。だって自分の人生なのに、好きな人と一緒に過ごせないなんて、考えただけでもお先真っ暗じゃないですか」
お先真っ暗という榊らしい表現に、橋本は苦笑しながら空を見上げた。どんより曇った空だったが、雲の隙間から綺麗な青空が見てとれる。
「恭介、朝の来ない夜はないし、雨だっていつかは止んで太陽が拝めるだろ。だからこそ俺は結婚という法律に縛られなくても、別にいいんじゃないかと思ってるんだ」
「俺は橋本さんみたいに、冷静には考えられないです」
「それはきっとお前たちは幼馴染みとして、ずっと傍にいたからだろうな。だけどさ、俺だってそこまで冷静なんかじゃないんだぞ」
大好きな宮本が絡むと冷静になろうと自分を制御する、もう一人の自分が現れる。もうひとりの自分が暴れると心が乱れて、冷静な判断ができなくなるんだ――。
「雅輝のヤツに告られたとき、抱かれてもいいって言われてさ。アイツも俺もタチ同士だと分かっていたから、そういう言葉が出たんだと思う」
「それって、結構デリケートな問題ですね」
「まぁな。アイツからそう言われたのに、俺は自分を提供することにしたんだ。どうしてだと思う?」
まるでクイズを出すような口調で告げた橋本のセリフに、榊は難しい表情のまま首を横に振った。
「なんだよ。頭のいいお前なら、答えの見当くらいついてるんじゃないのか? それこそ良株を探し出す推察力や、先を見通す分析力を使ってさ」
「残念ながら仕事上で使える能力は、プライベートではまったく発揮しませんよ。普段の俺ってば、和臣の手の上に転がされているでしょ?」
くすくす笑いながら指摘した言葉に、榊はぶーっと唇を尖らせた。その表情があまりも残念系だったので、橋本はそれを真似しながら返事をしてみる。
「そんなの、自分のことに関しては誰だって分からないものだろ」
榊の顔真似をした橋本を見て、心底嫌そうな表情のまま口を開く。
「俺は、自分のことでいっぱいいっぱいなんです。橋本さんの恋愛まで、気が回りませんよっ!」
肩を竦めながら両腕をW型にして、さっぱり分からないをアピールしまくる姿に橋本は観念したのか、あーあと呟いた。
「恭介に当てて欲しかったのによ」
「デリケートな問題をクイズ扱いする、橋本さんが悪いんです」
「俺、雅輝の責任感の強さが分かってたから、はじめてをあげたんだ……」
「なるほど。普段は強気の橋本さんが宮本さんには、まったく頭が上がらないわけなんですね」
意味ありげな表情に変化させるなり、肘で躰をつんつん突っついてくる。榊のニヤニヤした顔が、非常に憎らしく見えた。
「しょうがねぇだろ。アイツを縛りつける手っ取り早い方法が、他に思いつかなくて」
「そうでしょうか?」
「お前さ、恋愛関係になった相手と、普通に友達付き合いできるか?」
橋本の話題転換した言葉を聞いて、形のいい眉を上げながら意外そうな顔をした。
「もしかして宮本さん、普通に友達付き合いができちゃう人なんですか? 俺はちょっと無理な話ですけど」
「だろ? 俺も無理。しかもアイツってば俺と出かける服の相談をしたり、その後の恋愛の報告までしてるんだぞ」
「つまりそのことを知って、橋本さんは妬いているんですね」
瞳を細めてずばっと切り込んだ事実に、橋本の顔が一瞬で赤く染まる。耳まで赤くなっている様子に、榊は笑いを堪えるのに必死になった。
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