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目眩
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幼い頃、母親が自殺した。
母子家庭だった。
「お風呂入ってくるね。」
そういった母は、二度と俺を呼びに来てくれなかった。
待てど暮らせど開かない扉に痺れを切らし浴室へ向かったのは母が"お風呂に入ってから"約2時間が経った頃だった。
ちょうど日付が変わり、俺が12歳になった頃。
どれだけ押しても浴室の戸は開かず半べそで家の周りをさ迷った。
「誰か助けて、母さんが…」
その声に返事をした大人は日が昇るまでおらず、俺はただ暗闇の中ですれ違う大人に縋り続けただけだった。
当たりが明るくなった頃、きっと誰かが通報したのだろう。
どこからか現れた警察は平気な顔で
「両親は?」
と言った。
俺はあの時の大人の顔を忘れない。
警察に連れられ戻った家はしんとしていて。
それでも、母親が笑顔で「おかえり」と迎えてくれるような気がした。
「母さんが、お風呂から出てこない。助けて。」
玄関に上がり、俺はようやくそう言った。
一晩中誰かを求めてさ迷っていた俺は正直もう立ったまま寝れるほど疲れ切っていた。
警察はようやく「ただの家出」では無いことに気づくと駆け足で浴室へと向かった。
いくら押してもあかなかった浴室の戸は、警察2人係によってようやく開いたがすぐに俺はもう1人の警察に目を隠された。
一瞬見えた浴室の中には、白い顔の母親が服を着たまま眠っているように見えた。
視界を閉ざされた俺はがさ付いた手の下で目を閉じる。
何かを受け入れた気がした。
ぼんやりと香るのは慣れない煙の匂いで。
あの時見えた白いもやは風呂の湯気ではなく煙だったんだろうと今ならわかる。
俺は今でも、煙が嫌いだ。
¦ 煙り。 ¦
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