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廊下を歩く足は思っていたよりもずっとしっかりしていた。
ただ、目の前はよく見えず足が向く方にしか歩むことは出来なかった。
死んでしまおうか。
それがすぐに浮かんだ。
どうにも残されてしまった命だった。
生きていたかった命だった。
どうせ死ぬなら、うんと周りに迷惑をかけて。
そのうえトラウマを植え付けて。
そんな死に方さえできないのが俺の人生だ。
靴先が硬いカーベットをつつき、重心が前へ投げ出される。
いっそ足首折れて出血多量で死ね。
そんなことすら思うほど。
「君、大丈夫?前見なきゃ、そりゃ転ぶよ。」
誰かに両肩を支えられる。
のそりと頭を上げると、俺と同じくらいの歳の男がじっと見下ろしていた。
鼻を着く匂い。 煙草だ。
煙の中に薄らと柑橘系の香水の匂いがする。
ぐるぐると匂いが回って
苦しくて泣きたくなって
「……え、本当に大丈夫?」
そんな心配の声を他所に、俺の胃はいきり立った。
どうせ居なくなるなら迷惑をかけて死のう。
そんな風に思っていたくせに肝心の俺は臆病者だ。
高そうなスーツの襟に片手でしがみついて、それから込み上げるものを抑える代わりに
「ごめ、……っ…ぅ……………"…」
と相手に伝わりもしない日本語を呟いてから。
「………あらら。」
豪快にその男に胃液と、少し前に食べたクリームパンとそれからカフェオレの混ざったそれはそれは誰も見たくない液体を吐き出した。
喉が痛い、焼けるように。
少し後ろで女性社員の小さな悲鳴が上がった。
お前が泣いてんじゃねぇよ。
俺が
「な、んで………っ……」
「…ん?なに。」
なんで
何を したって言うんだよ。
「少し休もうか。歩ける?」
俺は顔も見ずにただ頷いて、手を引かれるままに歩いていた。
情けないとすら思わない。
どうせ死ぬならこの男に全部全部ぶちまけて。
それから、こいつのせいにして死んでやる。
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