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「好きなところ座って。」
と、案内された部屋は入る時に見間違えなかった限り扉に『専務室』と書いてあった。
…詳しい組織表を知らなかったとしても専務がどれだけ偉い人かは何となくわかる。
それが俺とそんなに歳の変わらなそうなこの男?
…悪いけれど少し怪しい。
「あの、追木さんって専務…なんですか…?」
「生駒でいいよ。まぁ、名前だけの役職だけどね。」
机の上の書類を腕で床に落とすと、荷物で溢れたソファにドカンと座ってそう笑った。
窓から入る日差しがガラスに反射して丸い光が生駒さんの頬を照らす。
舞い上がる埃に目を背けると驚いたような声で言った。
「あれ、埃もダメ?」
「…白いふわっとしたものが苦手なのかもしれないです。」
「生き辛いなぁ、それは。…窓開けるか。」
「いやいや、本当…大丈夫です。……無視してください。」
片腕で目を隠してそう言うが彼は俺を見ずに窓を開けた。
風と一緒に光が差し込むと部屋が煩いくらいに輝く。
…事務所の日当たりと比べたら別世界みたいだ。
「君のことを知りたいな。」
「…俺の事なんか知ってどうするんですか?」
「そりゃ部署異動するんだから面接的なのしないとね。君の場合、再採用に近いんだ。」
机にバインダーに挟んだA4の紙を置くと万年筆を添えて俺に向けた。
俺はおずおずとその向かいの小さな革張りの椅子に座り、生駒さんを見上げる。
差し込みすぎた光の代償に彼の顔は影になって表情が読めない。
怖い、という感情は間違えていないだろう。
「その紙に、この世で1番怖いものを描いて。」
「……それが面接?」
「そう。でも、それが本当に怖いものだと俺に伝わるように描いてね。制限時間は5分。」
見えない表情。
何を考えているのか分からない。
俺は万年筆を右手で摘み、1度紙にインクを引っ掛ける。
俺の一番怖いもの。
それは、本当に煙やその類なのか。
それとも
失うことなのか。
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