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肩肘をついて、紙とそれから彼の手を見た。
指先に小さな傷。
話すときに困ると指先をひっかく癖がある。
ペンを持つ手がおかしい。
幼少期の教育が十分ではなかった可能性が高い。
話すときの間が多い。
相手の様子を伺いすぎる癖がある。
ペンの使い方。
力が強すぎる。
とがった鉛筆よりも、丸い鉛筆を日常的に使っていた可能性が高い。
シャーペンやボールペンは不慣れ。
幸せな両親に恵まれなかった。
今の世の中では別に珍しいわけではない。
「できました。」
その声に顔を上げる。
彼の手の中にあるのは、白い靄を線で表した物。
…の中心に伸びた手。
「これが君の怖いもの?」
「…はい。何度も夢に見るんです。手が伸びて俺を捕まえようとする夢を。」
その顔はじっと見つめているように見えたが、目線の先はふらふらと揺れて何もとらえていなかった。
怖い?
というよりは刷り込まれた、きついトラウマのように見えた。
「それは、実体験と関わるもの?」
「……そんな、…」
そこまで言うと口を結んだ。
暫くいうべきか悩んだ後、一息ついてから少し顔をあげて呟いた。
「そんなこと、聞いてどうするんですか。」
「単純に気になるだけだよ。俺には無い感情、面白くて。」
俺が正直にそういうと、彼は少し怒ったような顔をして何も言わなかった。
怖い、という感情は難しい。
人と関わるにあたってできるだけ人に恐怖は与えたくないと思う。
でも人によっては自分が想像もしない形で恐怖を与えていたりすることもある。
それは例えば「優しい人が怖い」なんて人もいるんだから本当に難しい。
「…俺は怖いって思う事あんまりないんだよね。でも、嫌悪感はわかる。でもそれは拒否すれば終わることでしょ?
怖くてそれに負けてしまうって感情を知りたいんだ。」
「そのために俺のことを聞いて…何にするんですか。」
「何もしない!…ただ、共有して分かり合いたいだけ。ダメかな?」
ここで嫌がられたらやめよう。
と、思っていた。
嫌われるのはあまり得意じゃないし、それこそ嫌だ。
彼にとっての怖いが俺になるのは望んでいない。
あまりいい返事は来ないだろうなと踏んでいたところで予想外の返事が来た。
「あの、目の前で人が死んだことってありますか?」
彼の眼はどこか遠くを見ていた。
俺はそれが興味深くて椅子に座りなおしては身を乗り出して
「無い。聞きたいな。」
と笑った
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