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「俺も見たのは正式には人の死ぬところではなくて、死んだ人でした。…青白くて冷たい肌を触った。」
瞳は遠くを見つめたまま言った。
小さな唇が小刻みに震えるのを見て、少し可哀想になる。
「触れたということは身近な人?」
「…親です。自殺でした、あの時は分からなかったけど少し歳をとってから調べてわかった限りはおそらく練炭で。」
「だから煙か。そこを見たの?」
「はい。でも、よく覚えてないんです。きっと忘れられないはずの光景なのに。」
強いショックを受けた後、記憶が途切れるのはよくあることだ。
象徴的に煙だけ覚えてしまっているのも別に珍しいことではない。
でも、おかしなところは彼が描いたのは煙から出る手だという事。
……誰が手を伸ばしたのか。
「君が見た時、もう亡くなっていたんだよね?誰が手を伸ばしたんだろう。」
「……わからない。記憶が曖昧で、…思い出そうとするといつも…苦し、くて……」
言葉が途切れる。
ここでも吐かれたら俺の部屋さえも胃液臭くなってしまう、それはごめんだ。
俺は「お茶でも飲もっか。」と急に切り出すと彼に背を向けて部屋の隅にある冷蔵庫へと向かった。
靴の音だけが響く。
「………俺、こんな事していたらさぼりだともうクビになってしまうのでは。」
「どうせクビになる予定だったんだし良くない?」
「まぁ、それは…そうですけど。」
冷たい紅茶をグラスに2つ分入れると、振り返って彼の方へ向く。
小さく丸くなり頭を抱えて俯いている。
…小動物みたいだな、この子。
こういうとこが営業には気に入られなかったといえばなんか納得もいく。
「ねぇ、幸君。」
「…はい?」
丸い目が影になって揺れる。
その目をじっと見て、俺は笑い飛ばすように言った。
「俺の秘書になろうか。」
ぽかんとした顔に、風が当たる。
人生どうなるべきだと思う?
俺は巻き込めば巻き込むほど強くなれると思うよ。
かき回して
乱して
吐きそうになるくらい。
そうやって
一緒に生きていこうか。
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