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ごぽごぽと胃液が上がってくる感覚がわかった。
昔からそうだ。
火事の煙、ドライアイス、ラーメンの湯気さえも。
白い空気が怖くて仕方ない。
特に煙の臭いが嫌いだ。
好んで吸う喫煙者の事はもっと理解できなかった。
「…喫煙室に来ておいて煙草の匂いで吐かれても困るなぁ。」
「すみ、ませ…ん……」
まだ汚れていない灰皿に向かって口を開いた。
喉の奥から吹き出るような苦い胃液に顔を歪ます。
「それってさ。煙吸って気持ち悪くなって吐いてるの?それともトラウマ的なの?」
「……わかりません。でも、いつもこうで…特に、昨日から。」
「煙草見るたびに吐くの?大変だな。」
「今まではこんなに頻繁にってことはなかったんです。…ほんとに。」
俺はようやくベンチに座ると俯いた。
生駒さんは仕方ないな、という顔をして煙草をしまうと喫煙室の扉を開いた。
空気の入れ替えのためかと思ったが開いてすぐに俺を見ては
「おいで。」
とだけ言う。
革靴の踵が鳴ると、俺を待たずに前へと進んでいってしまう。
慌てて立ち上がり、口の中にまだ残る苦い唾を飲み込んでその背中を追った。
伸びた背筋と揺れる髪。
対して自分の丸まった背中。
あぁなりたい訳では無いけれど、この人といれば俺も少しは変われるだろうか。
「君はもし、好きになった人が喫煙者だったらどうする?」
「喫煙者な時点で好きにはならないと思います。」
「…まぁ普通そうか。」
1度振り返り、ふわりと笑うとまたすぐに前を向いた。
不思議な人だ。
捕まえていないと消えてしまいそうな
そんな感覚がした。
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