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教師がプリントを取りに職員室に戻ったとき、相田さんがこっちを向いてメモを渡してくれた。そのとき口パクで『ありがとう』と言った気がした。
チップとデールのかわいいメモに丸っぽい字で文字が書かれていた。
それを俺は必死でなぞった。
≪バンドしてるんだ!初めて知りました
夏祭りは友達と行くから、友達にも声をかけておくね
詳しいことが決まったらまた教えてください
これ、わたしのラインです≫
チップ(デールかもしれない)がドングリを追いかける先にラインのIDらしいものがあった。
相田さん、来てくれるんだ…!
机の下で控えめにガッツポーズをした。
「相田さん、来てくれるの?」
「うん、友達も誘ってくれるって」
ほら、とポケットに大事に入れていたメモを広げて見せた。
日崎はそれをご飯を頬張りながら読んだ。
「良かったじゃん」
ふと見た日崎の顔に固まった。
笑ってるのに、柔らかい声なのに──なんでそんな寂しそうな顔するんだよ。
相田さんのことも、日崎のこともわからないことばかりだ…。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
どうかしてるのはお前の方だろ、と言いたい気持ちをこらえて笑った。
「やる曲、何にする?」
二人の間に流れた微妙な空気を吹き飛ばすように日崎が訊いてきた。
「祭りだし、和テイストの『甘味の怪物』とか?」
「あー、ありだね。オレは夏ってことで『積乱雲と、麦わら帽子と、君とマシュマロ。』かなって思って」
「あ!あのメンバー全員シュノーケル装着して歌ったやつか」
「そうそう、マシュモンの夏と言えばあれだよね」
音楽の話になるとさっきの微妙な空気が嘘のように会話が弾む。
笑い声も生まれてくる。
好きだとか恋だとか俺にはまだ難しい。
まだこうやって気が合うやつと好きな音楽の話をしていたい。
誘っておいてそんなことを思うなんて身勝手なんだろうな。
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