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あっという間にライブは終わり、バンドのサウンドは拍手に引き継がれる。音の嵐はスポットライトのようだった。
社交辞令というか礼儀で拍手してくれている人もいれば、「ブラボー!」という声が聞こえてきそうなくらい大きく手を叩いてくれている人もいる。
──そう、これでいい。
完璧な音楽が聞きたければ有名なアーティストのCD音源を聞いていればいい。
安心する調和と共感でできた歌詞があるはずだ。
でも俺たちが作りたいのはそういうことじゃなくて、吸い込まれそうな危うさだ。
このステージに完成した音楽はなくても、あの日あのライブハウスで感じたような音楽の渦はある。
聞く人をも飲み込んでしまうような渦は、調和でできた大海原のど真ん中では起きない。
少しずれているから、少し乱れているから起きるのだ。
そのことに気づけたから、俺は今日崎の左に並んで胸を張ってお辞儀ができる。
ステージを下りたら誰よりも最初にメンバー皆にありがとうを言おうと思った。
「真斗が別人みたいだった!」
「かっこよかったよー」
前の方でずっと見ていた姉ちゃんたちが俺たちにたこ焼きを届けてくれた。
姉ちゃんも真奈も浴衣を着ていて、二人こそ別人のようだった。
「じゃあ私彼氏待たせてるからもう行くね」と真奈が手を振って踵を返すと、姉ちゃんも手を振って母さんのもとへ走っていった。
数秒の間があって橋元が
「北田のお姉ちゃんたち可愛いな」
なんて言い出すから、「橋元が義兄とか嫌だからな」という思いを込めた冷たい視線を送って差し上げた。
「──北田」
「ん?」
日崎が俺の肩を叩いた。
「相田さんいるよ」
少し宵を混ぜた冷たい風が俺たちの浴衣の裾を揺らした。
公園の中央で楽しそうに話していている友達の輪から抜け、片隅で待っていてくれた相田さんは紫の浴衣で、いつもより少し大人っぽかった。
「来てくれてありがとう」
「私こそありがとうって言いたいぐらいだよ!やっぱり音楽って楽しいなって思った」
社交辞令で言ったわけではなく、心から言ってくれているというのは分かっている。
ライブ中、お客さんの中で一番綺麗な目をしていたのが相田さんだったからだ。
「誘ってくれたときちょっとびっくりしたけど、今日来てほんとに良かった」
「文化祭でもやるからまた見に来てくれたら、嬉しい」
微笑みが相田さんとの間を何度か往復し、手を振って二人とも待たせている友の元へと足を向けた。
橋元に冷やかされてそういえば日崎は「北田は相田さんのことが好き」と思っているはずだったことに気づいた。
いつかこの誤解は解かなくちゃ、と思ったけど、前川や橋元やその他大勢がいる前で「俺は日崎のことが好きなんだ」なんて言えるわけもなく、これはいつか時が来たら言うことにしておく。
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