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桃麻(とうま)は困惑していた。
「あー……。こういう場合は、どうすればいいんだろうな……」
辺りには魔を退ける桃の木が立ち並び、薄桃色の花びらが絶えず宙に舞い踊る。
外界とは隔絶された、神の住まう聖なる領域。その中心にある簡素な舞殿の上で、今回の獲物が近づく桃麻の気配にも気付かず、無防備にくるくると舞い踊っている。
「この反応は初めてだな。普通の奴だったら退治屋の俺を見て、襲いかかってくるんだが。本当に悪鬼邪神の類いか? こいつ」
割のいい話があるからと紹介して貰ったこの仕事。向かった先の村でとんでもない邪神がいるから殺してくれと頼まれた所までは良かったのだ。
邪神はどこだと指定された場所に赴いた途端、大地が揺らぎ、気付けば桃の香りに満たされたこの空間に一人ぽつんと立っていた。そして歩き回った末、この奇妙な神を発見したのである。
桃麻は腰の剣の柄を左手で弄びつつ、相変わらず舞殿の上で舞い続けている神を眺めた。
年齢は恐らく自分と同じ二十代。艶やかな黒髪は腰まで届く程に長いが、体付きと桃麻より頭一つ分高い身長から察するに、恐らく性別は男性だ。纏う薄い布地の服は、夜に移りゆく空のような深い紫。彼が舞う度にひらひらと余った布がはためいて、裾の先に着いた鈴がりん、と澄んだ音を立てている。
その姿は、まるで美しい踊り子のよう。しかし顔全体を覆う目玉模様が描かれた布製の面と、背から生える白く大きな四枚の翼が、彼を人とは異なるものに仕立て上げていた。
一歩ずつ、一歩ずつ。桃麻はその神に近づいていく。舞殿に上がり、手を伸ばせば届く距離までやってきたが、それでもこの奇妙な神は、桃麻の存在に気付く気配もない。
「おおい。ちょっと、そこの」
試しに軽く声を掛けてみたが無反応。
「ちょっと! 聞いてるか!?」
少し背伸びをし、大声で呼んでみても、反応は全く変わらない。
「今のはさすがに聞こえてるだろ。……って事は無視か?」
人間のような下等な存在の言葉は聞き入れないとでも言いたいのだろうか。そういう神もいると聞くが、実際にこうして相対すると腹が立つ事この上ない。
「おい、無視するなって!」
桃麻は声を荒げながら、目の前で舞い続けている神の手首を勢いよく掴んだ。
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