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お仕事⑤*
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ずっと聞くのが怖かった。
どうして紫音は僕を拾ってくれたの?
どうしてこんなによくしてくれたの?
その答えはあまりに残酷で。
「僕が拾ったんじゃない。ここの誰かが君を連れてきたんだ。僕に似ていたから世話をさせるのに好都合だったんだろう」
「最初から…このために…?」
「うん。ここでは仕事をしなきゃ暮らせない。預かったときからこうなることは決まっていた」
「なんだよ、それ…!」
紫音がおれを育ててくれたのは、あの狼に捧げるための準備をしていただけだったの?
スープをくれたのも、お風呂にいれてくれたのも、優しく抱いてくれたのも、全部、ぜんぶ…!
いままでの幸せな思い出が黒く塗り替えられていく。
ぜんぶ嘘。
全部ぜんぶ、あの狼のための捧げ物。
おれの身体も、気持ちも、居場所も、全部。
「嫌だ…そんなの嘘だ…っ」
受け入れられるわけない。
やっと見つけた居場所なのに。
「久遠…」
ぼくを撫でようとした紫音のその手をパシッと払った。
「ウソの優しさなんかいらない!!おれは野良猫でいい…!!」
おれは紫音の顔が見れなくて、ベッドから飛び出して部屋の外に出て行った。
「久遠、だめだ、危ない!」
紫音の静止の声も聞かずになりふり構わず走った。
ここがどこかもわからないけど、とにかく走って城を出て、ひとりになれる場所を探した。
塀に囲まれた敷地は広くて、風俗店や寮や富裕層の家でできた街みたいだった。
誰も信じられなくて、自分の居場所である路地裏を探して走った。
いつだってそうだ。おれの居場所は路地裏だった。紫音の温もりを求めたのなんて、ただの気の迷いだ。温もりを求めて心がズタズタに引き裂かれて、こんな想いをするくらいなら、野良猫のほうがマシだ。
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