アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
嬉しい
-
「……今日は、マジでサンキュ」
嬉しそうに、笑顔を僕に見せる大空。
店を出て、駐輪場に停めたバイクを引き取った後、手で押しながら駅へと向かっていた。
空はすっかり薄闇に覆われ、街のあちこちに灯りが点く。
こんな僕の指で、本当に役に立ったんだろうか。
細いとはいえ、男と女では……やっぱり違うと思う。
佐藤さんの指のサイズ、僕よりもっと細い筈……
「喜んでくれると、いいね」
心にもない事を口にする。
そんな自分が、嫌だ。
「……そうだな」
そう大空が答える。
やがて見えてくる駅の入り口。
もうここでお別れなのかと思ったら、淋しくなって自然と気持ちが沈んでいく。
ちらりと大空の横顔を盗み見る。
少しの間だったけど、大空と一緒にいられて楽しかった。
……でも。
あの指輪を、佐藤さんの為に選んだんだと思ったら……
「……」
複雑な心境のまま俯けば、不意に大空の足が止まった。
「……まだ、時間あるか?」
「え……」
「少しだけ、走らねぇ?」
「……」
思ってもみない大空の提案に、驚きながらもこくんと頷く。
「……バイク、好きなの?」
ヘルメットを装着して貰いながら、大空に尋ねた。
「好きだよ。バイク屋で、バイトもしてるしな」
「バイト……?」
「そう。……うちさ、母子家庭なんだよ。俺が学費稼がねぇと、生活成り立たねぇっつーか」
「……」
それなのに、あんな高価な指輪を。
「何だよ、その顔は。
学校にはちゃんとバイトの許可貰ってるし。コイツも……あー、原チャじゃねーから、まだ揉めてっけどな」
そう言って、サドルを叩いた大空が苦笑する。
……知らなかった。
大空がそんな境遇だったなんて。
「あー、そういやメット。悪ぃな。コレ恥ずかしいだろ」
「……うん。ちょっと……」
はにかみながら本音を吐露すれば、大空が遠慮なく笑う。
「お前用のメット、今度用意しとくわ」
そう言って大空がヘルメットをポンと叩く。
……それって。
また僕を乗せてくれるって事……?
「………うん」
僕専用のヘルメット。
指輪より、嬉しいかも──
バイクの後ろに跨がる。
二回目は少しだけ、大空の腰に手を回すのにも慣れた。
大空の手が、回した僕の腕を二回タップする。出発の合図。
大空の足が地面から離れれば、大空と僕を乗せたバイクが風に乗る。
この時間が、ずっと続けばいいのに……
何時までも……永遠に……
《それは、嬉しいね》
〈……はい〉
興奮したまま僕は、その夜ミキさんにメッセージを送った。
それを聞いたミキさんは、優しく受け止めてくれる。
《アメくん用のヘルメットは、どんなデザインなんだろう。楽しみだね》
そして、自分の事のように喜んでくれる。
それが、とても嬉しい。
〈……はい。楽しみです〉
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 111