アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
「おばちゃん出てったの? 残念だなー。もうちょい話したかったのに」
「……おばちゃんじゃなくて、シヅさん」
「住み込みの家政婦とかマジでいんだね、このご時世に。びっくり」
「君のとこにもいるだろ」
「………………あー。………………家政婦とメイドって一緒?」
「………………帰れ」
「なんで? やだ」
「………………」
しっかしすげぇ家だな、と彼はフラフラ歩いて四方をキョロキョロ見回す。急に自分のテリトリーに異物のいる気味悪さを感じて、僕は不快になる。
「……本当は君も来たくなかったろ」
「ええ? なんで? 会いたいに決まってるじゃん。世紀の名探偵」
「………………」
「ねえねえあれって本物?」
「複製画。高校生が休日に親戚のところに来ても面白くない」
「それはどうかなー。和室にシャンデリアってめっちゃ凄いね。かっくいー」
「安物だよ」
「とか言いながらあそこにある壺は古代中国の、」
「素人の工作物」
「実はこのカーペットはインドの、」
「ニッセン」
「あの彫り物は、」
「母が箱根で衝動買いした大量生産品」
「いいなー。欄間。江戸い」
「…………仰ぐときに口を開けるな雑な言葉を遣うな姿勢は正しく」
「やだ……、目解家の人みたい……っ」
「それは分家に対する当てつけか?」
「ちっがーうよ冗談じゃん。すげぇとこひっかかんね。気にしてんの? 分家なの。本家だったらよかった?」
「やだ」
「ですよね」
「……………………」
「あ、ですよねって本家が言うのはよくない?」
「君は長男だろ」
「次期当主」
「聞かなかったことにする」
「ありがと」
「君は本当に目解幸多か?」
彼の動きはピタリと止まり、そして僕を見た。
傷つけたのかと思った。
違った。
「疑う?」
むしろますます目を輝かせて僕に挑んでくる。
「今までの君の言動挙動を見る限りは」
「俺、目解家家訓、全部言えるよ」
「第23条」
「15歳から遺言書は作成すること」
「第55条」
「再婚は七回目まで」
「第82条」
「トイレで寝るな」
「第256条」
「りんごの食べ過ぎはよくない。……意味わかんないけど」
「第199条」
「殺人の禁止。これって刑法とかけてる?」
「多分ね」
「なんで?」
「書くことなかったんだろ」
自分は何をやっているんだろうと、自嘲した。気が緩んだ隙にパーソナルスペースを侵害され、何故彼に抱きつかれたのかわからないまま数秒固まる。
「第1条」
今度は彼が僕を試す番らしかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 387