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19時過ぎ。
案の定、外出を催促されて、僕は頑なに拒否する。
「なんでよいいじゃん大丈夫だっておれがいんだからアナ雪ごっこしてないでよ行こうよ今日めっちゃ涼しいよ?」
「行かない」
「あ、じゃあ庭うろつくぐらいはどう?」
「嫌だ」
「庭に死体は転がってねえよ大丈夫だってばもうネガティブだなあ」
「庭くらいなら大丈夫だろうと思って外に出たら血まみれの人が逃げてきて目の前で死んだ」
「『見えない殺人者』」
「ベランダぐらい出てもよかろうと出たら死体が部屋に飛びこんできた」
「『空飛ぶ死体』」
「賢明な読者で助かるよ」
「じゃ、行こっか」
「行かない」
ぎゃあぎゃあ騒ぐこと小一時間、いつも温厚なシヅさんが怒り、うるさいと僕らを家から追い出した。
僕らは家から追い出されたのだ。
肌に感じる外気に、恐怖を感じた。体は震え、呼吸は浅くなり、今にも気を失いそうになる。倫太郎が咄嗟に僕の手を握ってくれていなかったら、きっとそのまま心不全で死んでいたに違いない。
「礼介くん。大丈夫だよ。おれがいるからさあ」
こちらの意識が朦朧としているのをいいことに、彼は僕と手を繋いだまま、通りに出た。閑静な住宅街を進んでいく。外に出たくなかったのは、何も陰惨な事件に遭遇することを厭うただけではないのだと、その時初めてわかった。
罫と幾度も歩いた道。
彼らと散々走り回った街だ。
嫌でもありありと光景が、あの頃の熱がよみがえる。曲がり角でぶつかった女性との出会いは仕組まれたものであった。当時流行した茶店の行列。百貨店のアドバルーン。霧の夜に現れる大型怪獣の影。夜に現れる幻の無音チンドン屋は、お堅い職業に就く人達の考えた人生唯一のおふざけだったこと。罫が傍にいた。いつも罫は隣にいた。笑って、怒って、僕と共に生きていたのに。
「あそこコンビニ出来たんだよ。知ってる?」
幼い声が僕に語りかける。何故だろう当時でさえ、街の闇は消え、不便さや武骨さは無用のものとなり、ユビキタス社会は既に当たり前のものとなっていたのに、今目の前にある光景は、眩しいくせに軽薄で無感情で、それは僕が時代に追いついていないというよりは、誰か他の主人公のために、舞台の装置が作り替えられていくようだった。
全ての演目を終えて、解体された大道具たち。
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