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ほら見てごらんと倫太郎がにこにこしながら僕に言う。夜景、綺麗ですね。いくら彼が変わった性格の持ち主といえ、さすがにこれはふざけてると分かるので、僕はその眩しい建物から目を背ける。
「宿泊12000円~の夜景ですよ」
「やめなさい」
住宅街に突如現れる、モーテル風のラブホテルは、大昔この辺りに駅があった名残だ。嫌がる僕の反応が楽しいのか、倫太郎はなかなか建物の前から動こうとしない。
「休憩だと7300円だって。あら安い」
「なんで知ってるんだ。高校生のくせに」
「いやめっちゃ看板に書いてあるし。いいなー。ステーキと温泉と映画とカラオケ。あ、ダーツバーもある。それは興味ないな。なんか欲張りセットだね」
「…………行こうか」
「え、中に?」
「違うよ。先を急ごう……というかこの苦行の折り返し地点はどこなんだ。帰りたい」
「言ったじゃん。夜の運動会だって」
ずっと握った手がそろそろ湿り気を帯びていて、彼は嫌じゃないんだろうかと思う。涼しいとはいえ、動けば熱くなる。正直僕の気分は良好とは言い難く、この手を離されてしまえば、そのまま精神の奈落へ落ちてしまう気がしている。と、いうことを考えて、他の思考を逃がしている自分がいることまでを理解している。
「礼介くんラブホ使ったことある?」
「ない」
「ふうん」
まったく手をほどく素振りもなく、彼はまた歩き出した。
「……具体的にどこに行くんだよ」
「えっ、結構そんまんまだけど」
「場所で示せ」
「三文字」
「地名が?」
「いや、その……場所? 建ってる……んーと、駄目。これ以上はノーヒント」
「略語? 俗称?」
「ノーヒント。ノーヒントノーラン。ヒットエンドラーン」
「はぐらかす意図はなんだ」
「ええ……ちょっと驚かせたい……から……?」
「………………………嫌がるのをわかってて連れていくのか、君は」
「ええ、嫌がるの? まあ普通ならね? そうかも。いやどうだろ。ワクワクする人も世の中にはいる。おれはワクワク側。多分礼介くんもワクワク側。涼しいし。ハッピーエンド」
「絶対違う」
「好きだと思うけどなあ。夜の運動会」
どうあれ、その言葉を多用してほしくない。あまり宜しくない。そう思うのは自分が薄汚れた大人だからで、きっと彼は僕の頭に真っ先に浮かんだこととはまったく違うことを示唆していると解っている。なので僕は黙って歩く。彼は楽しそうに鼻唄なんぞ歌っている。
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