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風呂に浸かりながら、今日を思い返す。人と会うごとに軽薄な心は揺さぶられて、どうせ最後はひどく痛む。左手をかざす。鈍く光る指輪の、片割れの行く末を僕は知らない。
最愛の人。
他に言葉は要らなくて、ただ幸福と愛を感じるだけだ。
来客があるようになってから少しは元気になったと、僕を見てシヅさんは喜ぶ。疲れている主人を見て喜ぶのはいかがなものかと思うが、彼女が嬉しそうにしているので特に何も言わない。奥様から御手紙が届いていますと、夕食前にトレイを差し出された。シヅさんのいう奥様は倫太郎の母親のことだ。
手紙の内容は、簡素なものだった。
読み終えて、僕は食事を摂る。あれが食べたいこれは嫌だと、そんな感情はここ数年、微塵も起こらなかった。味もわからない。生きる目的がないのに腹は減る。ただ空腹を満たすだけの行為。シヅさんがどれだけ腕によりをかけようが、今までまったくの無感動だった。
────ああ、腹が減った。
────今どこまで進んでるの?
────まだ全然さ。洞窟を見つけるまでの謎解きが厄介だ。
三人とも、机上の散らかった資料をどけて、ファストフードの包みを広げる。彼女はカメラを傍らに置いて、僕らにナプキンを渡してくれた。僕は彼女の選んだ商品を見て、ついからかいたくなる。
────また新商品にしたのか。
────だって期間限定なんだもの。絶対食べたいじゃない?
────普通のでいいんだけどな。
────半分こしましょ? ね? 私そっちも食べたいの。
いちゃつくなら暑苦しいから外でやってくれと、罫が天井を仰ぐ。そんなつもりはないと反論する前に、彼女があらごめんなさいと幸せそうに笑うから、僕はどうしていいのかわからなくなる。
氷で薄まったオレンジジュース。まだ温かい包み紙。劣化した油と塩味。ケチャップの匂い。扇風機は熱風を起こすだけで、開け放した窓からは風など吹いてこない。遥か遠くに飛行船。入道雲。どこかで子供の歌う声。蝉の大合唱。
隣に彼女がいた。
隣に罫がいた。
夏の午後。
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