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「好き」
「そう。それはよかった」
甘いものを与えると倫太郎は喜んで、目をキラキラさせながら夢中になってケーキを食べている。興奮してまたベラベラ喋り出すのかと思いきや、おとなしくなるので、僕は動物を見る目で彼を眺める。
「悪の組織みたいな名前ってだいたい美味しい」
「ガトーショコラ?」
「うん。あとゴディバもね。ゴディバ男爵」
「男爵」
「知らない? グランド整備戦隊スプリンクラーは?」
「知らない」
もったいない生き方をしてるなあ、と倫太郎は言う。ケーキも食べないしね。甘いもの苦手なの?
苦手というより甘味をあえて欲したことが人生でないのだと告げると、倫太郎は奇妙なものを見る目で僕を見た。
「恵まれてるね」
「そうだね」
それだから、滅多に甘味を口にした記憶は少ない。幼い子供のうちは余所へ訪れるごとに差し出されてはいたが、中学にあがるあたりで人付き合いもなくなり、大人になってからは、誰かに無理矢理でもされないと口にしなかった。
クリームと着色料べったりのチェリーが乗ったメロンソーダ。種類豊富なフルーツパフェ。見てくれがいいだけで、別段味はなんともないロールケーキ。行列の出来るたい焼き屋。2月に売り出されるチョコレート。
──あのなあ、女と来いよ。
──馬鹿だな。女と来るための下調べさ。腹も空いてたし、丁度いいだろ?
淡く可憐な内装の喫茶店で、罫は新聞を広げる。
──それで、あのバラバラ死体の謎は解けたのか。
──まだ何にも解っちゃいないよ。罫、その話ここでするつもりか?
諫めたところで結局僕も机に身をのりだし、物騒な議論は白熱する。僕たちは無抵抗なパンケーキを切り刻み、血のように赤いラズベリーソースで皿をけがす。闇色の苦い液体を飲み込む。ガラスの向こうは建設途中の巨大な橋。青空。インクの滲んだ新聞の旧漢字。やがて謎はじんわり溶け出して、バニラ味の解説は罫を満足させたようだった。
──つまり礼介。お前はあいつが犯人だって言うんだな。
──間違いない。青森から横浜までをたった五分で移動してみせ、何人もの身体をバラバラにした上で、悠長にデコレーションなぞ出来た人物は、車椅子のご老人ただ一人さ。
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