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「おれが恵まれてるって言うの、不自然?」
黙った僕を気遣ってか、上目遣いの倫太郎に、僕は微笑む。
「そんなことはないよ。僕は君ほど責務を負っちゃいないからね」
「うーん……おれもそれなりに人生楽しいですけど」
「それはなにより」
「美味しいの食べれたし」
倫太郎のら抜き言葉を訂正しかけて、いや、もう今はそういう時代ではないのだと思い直す。時代は変わった、と思う時代さえ、もう終わった。
会話の方向性を考えて、僕は皿の上の菓子を眺める。濃厚な茶色い塊は、見るだけでお腹いっぱいだ。
「…………真夏に食べるものではないよね」
「そうなの?」
「冬のイメージじゃない?」
「うーん。それってハンバーガーの美味しい季節みたいな?」
「うーん。多分違うと思う」
「うーん。あ、わかった。ホットショコラとガトーショコラ、同じ箱にしまってるでしょ」
倫太郎は脳を指して言う。どうやら彼は記憶を引き出しではなく箱におさめているらしい。おもちゃ箱。贈答用の包装紙とリボン。からくりの小さな箱。大きなつづら。
「そうかも」
「っていうか食べないのになんでおうちに美味しいお菓子があるの」
「兄が持ってきたんだよ」
倫太郎の手がピタリと止まった。
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