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【第六話 新たなる幕開け】
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【第六話 新たなる幕開け】
散々繰り返される万華鏡のような美しい悪夢をまた今日も見て、真夜中に目覚める。起きてしばらくすれば物語を忘れてしまい、ただ色鮮やかであったこと、…………ひどく楽しくてひどく悲しかったこと、…………美しい日々の残像であったことなどが、まだ心にキラキラと光って、………………………やがて、それも夜空の花火のように消えていく。
無理矢理また寝ようとすれば、今度は本当に嫌な悪夢を見た。
「礼介!」
思えば最初から奴は僕を呼び捨てにしてきた。通学途中にまたぞろ死体を発見し──道端に注意すまいと、流行りの歌謡曲に倣って上をむいて歩いていたところ、空から死体は降ってきた──警察沙汰になり、厭になって学業を放棄し自室へ引きこもったのだった。僕がいないほうが世界はよくなるのではないか、そんな誇大妄想をこしらえて、心地よい自虐にひたっていた。
シヅさんの制止も聞かず、階段をドタドタと登る足音……その騒動を耳にして、僕は兄がやったきたのかと、まだ開かれぬ障子を振り返った。俺の迷惑になるようなことはするな、お前はどうしていつもそう良く在れないんだ、と、いつもの高慢な説教を想定して身構える。
ところがスパァンと勢いよく障子を開け放ち乗り込んできたのは、見知らぬ男子学生だった。
がっしりとした肩、腰と臀部にやや脂肪過多、白い靴下の親指部分に穴が開いている──気にしない性格か金がないか──僕と同じ制服を着ている以上、前者──筋肉のついた腕、えらのはった頬、思春期特有の肌荒れ、太い眉と力強い眼力は仁王像を思わせる──しかし優しい。きっと下に兄弟がいる。ざんばらに切った髪。厚い唇。情緒。豊かな感性。行動派。
そして彼は、僕の名を呼んだのだった。大きな顔が嬉しそうにほころぶと、まるでひまわりが咲いたようだった。
「君が学校を休んだから、宿題を届けに来た」
手にした紙の束を、戦利品のように彼は僕に掲げる。
「……それはどうも」
彼の後ろでうろたえているシヅさんに、それを受け取るよう目配せする。宿題はへの字口の彼から女中の手へと渡され、最終的には僕の机に置かれた。珍客を階下へ戻し、茶でも出そうかとするシヅさんを止めて、放っておいてくれと手をひらり振る。君は誰だと問いかけて、ようやく角川罫は自己紹介をした。
「角川……ああ、あの」
商家か。思うだけで口にはしない。苗字が俺の人格じゃないぜ、と先に罫が牽制してきたからだ。彼は断りもなく畳の上にあぐらをかいて座った。
「お前だって父親の複製扱いされたら怒るだろ?」
「複製は兄だ」
「そりゃ良かった。次男は悠々自適でいいよな」
その物言いで、彼が長男であることを知る。適当に僕の本棚を漁っていた彼は、国語辞典を見つけて自嘲した。
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