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【第一話 前前前世】
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【第一話 前前前世】
倫太郎です。
これ以外におれが持つおれの不変的な真実ってなくて、苗字は変わるし居場所も変わるし、関わる人たちが違えば性格も態度も変わるのは当然でしょ。的な。
ものごころついたときから、なんかおれって、他の人とは違うよなとは思っていた。うちの家族がおかしいのかしらん。お父さんは神出鬼没、お母さんはお父さんとおれの先生。
倫理について。
人は殺しちゃいけません。ものは盗んじゃいけません。自分がされたらいやなことを、人にしてはいけないのです。この世界には無数にルールがあって、全部守れば全員幸せ。ハッピーでラッキーなミラクル。赤信号は止まれ。青信号は手をあげて渡れ。雨の日は傘をさすもの。白線の内側までおさがりください。お湯を注いで3分。痛いときは泣いて嬉しいときは笑って、でもたまに泣くこともあり、それは嬉し泣きという言葉に分別される。
あるとき、目が覚めたら茶色い世界だった。
それは色々わかってくうちにいろんな名前がつけられた地震で、大地震で、震災で、まあ最後は大震災ってことになって、お母さんお父さんっていうか友達も家もいつもの街並みも行ったことない場所も全部茶色で、おれはなんか、かっこいい制服きたおじさんたちに助けられて、よくわかんないけど生き残ってる人たちと一緒にされて、なんやかやあり、孤児院に預けられた。
毎晩、誰かが誰かを求めて泣いていた。
勝手に可哀想にされて、勝手に見下されて、おれはあんまよくない人たちとつるみ始めた。なんかおれ、スリとか万引きとか詐欺とか才能あって、そういえばお父さんに手品教わったりしてたもんな。お父さんがいくつも偽名使うのよく見てたし、違う人間になりきるのとか、身分証偽造とか、見てたからな。ものは盗んじゃいけません。人のいやがることをしてはいけません。でもお母さん。お腹がすいていたら、馬鹿にされて目の前が真っ黒になるほど怒り狂ったら、心がギザギザでカサカサでバサバサだったら、なんかに攻撃したくて反撃したくて余裕なくて、どうしようもないんだよ。善人じゃいられないんだよ。
要領のよい子供だったので悪事はバレず、おれの人生ゲームは当たりのマスに進む。裕福な家庭の養子になりました。おめでとう。苗字は木戸目から小林へ設定変更。ステータスも喧嘩や脅迫のゲージはなくなって、かわりに国語算数理科社会。
世の中を知っていくうちに、おれは自分がやっぱり異質なんだって知る。学校帰りに図書館へ寄って、毎日のように古新聞を眺めた。
怪人と名探偵。
お父さん。
おれはどうやって、なんで、生まれたの。
もちろんお父さんとお母さんは愛しあってた。それはわかる。リアルにこの目で見たから。でもなんか、矛盾してない? おかしくない?
高校に進学して、おれは目解幸多と知り合う。たぬきみたいな子。おとなしくって、おどおどしてて、優しくて、柔らかくて、ぷくぷくの真っ赤なほっぺ、短いまんまるの指、とたとた走る脚、可愛い可愛い食べちゃいたい切り刻みたい分解してみたい。
生ける伝説、名探偵の、親戚。
やばー、あとちょっとで推しと繋がれんじゃん。まあ推しは幸多だけど。名探偵。あいつしかおれの両親のこと、本当のこと、角川罫が一切小説に書かなかった事実、きっと、知らない。きっと、絶対全部知ってる。てか、当事者だし。
小説の大ファンってことにして、おれは幸多と友達になった。ねえねえ名探偵ってさ、こんなにかっこよかったらさ、きっと女の人にモテたよね。っていうかこの小説、あんま女性関係出てこないよね。実は怪人側にも女性の味方、いたりして。
「いたよ。礼介さんに、恋人。父から聞いたぐらいの話しか、知らないけど」
おれの本音は怪人側にも恋人いただろ……お父さんとお母さんの話が聞きたい……だったんだけど、幸多が淡々と話す内容を聞いて血の気が引いた。
お母さん。
どうしておれを産んだの。
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