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そういえば、と更に礼介くんは話題を変えて、おれは上品と幸せとまったりを練り込んだケーキにありつく。美味しい。甘い。ちょっと苦いのがいい。美味しい。幸せ。
礼介くんは食べないらしい。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ。
礼介くんに話をはぐらかされたのはムカつくけど、チョコレートのある世界線に生まれてよかった、と思う。甘いもの。幸せの塊。チョコレートの思い出。孤児院でお菓子はあんま出なくて、クリスマスと誕生日だけが待ち遠しかった。チョコも玩具もあげるから、おじさんといいことしようか。っていう先生がいて、あのときは迷ったよなあ。いやあ、ビビって断ったおれ、大正解。あの人は何をするつもりだったんだろう。夏のホラー話。
礼介くんがジッと見つめてくるから、ちょっと怖い。行儀作法なんて教わってない。おれ、なんかおかしい? 目解っぽくない?
「…………なあに」
おそるおそる聞いてみた。
「なにが?」
「人が食べてるとこガン見してこないで」
ごめん、と礼介くんは謝った。本人無自覚だったっぽい。
「なんでしょうか」
「いや……子供が美味しそうに食べてるからさ。可愛くて」
お父さんかよ。
そう思った自分が恥ずかしくて、子供扱いすんなと怒ってみせる。わかりますわかります。おれも幸多がハッピーオーラばらまいて、アイスとか唐揚げとか食べるとこ、つい眺めちゃうもん。わかりみー。可愛いよね。
お父さんがいたら、こんな時間があったかもしれない。まあ、いないんですけどね。はっはっは。
別に代わりなんか求めてないし。てか両親いるし。おれ養子だけど。平凡で退屈な人達だけど、おれの存在喜んでくれてるし。あれ、おれって、もしかして礼介くんのこと、親みたいに思ってる? 違う違う違う。そんなことない。やだ。キモいよそれは。さすがに。違うし。
茶色の世界。
全部失ったんだ。
それがおれだよ。でもちゃんとお母さんとお父さんの遺伝は受け継いでて、おれは人に好かれるし、悪いことの才能あるし、他人と違う世界観で人生楽しんでる。楽しんでるよ、ちゃんと。楽しみにしてた明日は来なくて、いきなりお父さんもお母さんもゆきくんもひろくんもまいちゃんも笠岡先生も全部全部死んじゃって、いつもの公園もおうちも学校も好きだったケーキ屋さんも土砂の中で全部ぐちゃぐちゃに混ざって茶色で、なんか、知らない子供らとまとめられて可哀想扱いされて人間扱いされなくて変態に目ぇつけられて逃げてステージアップしておれは苗字を失う代わりに安全とか健全とか手にいれて、そんで幸多と知り合って順調に名探偵と繋がって仲良くなって今ここ。
なんの後悔も失態もないですけど。
だからないものねだりなんか、しない。してない、絶対。ああでもこんなに強く強く強く否定したいってことは、もしかして。
甘いもの興味ないって人に、恵まれてるねって言ったら、黙られた。それはちょっとよく考えたら目解幸多の台詞じゃなくておれの感情で、おれ、乗り越えてきたつもりだったけど、もしかして力任せにガムシャラ生きてきたから、振り返る余裕がなかっただけなのかもしれない。
もっとお父さんとお母さんと一緒に過ごしたかった。
いっぱい抱きしめられたい人生だった。
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