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物理的に逃げる名探偵を追って、ダイニングから廊下へ。ひらひらの服の袖を掴む。
「勝手に終わんないでよ。続きは?」
「ない」
「なんだよなんでだよ、ありますよ」
「ないのです」
「酷い酷い酷い! そんならやっぱ罫くんとの仲疑うからな!」
「お好きにどうぞ」
「薄い本書くぞ」
「君も物書くの? 意外だな」
「違うよ。……馬鹿」
「うん」
「ヤり捨てされた気分」
「そう」
「もやもやで苦しい」
「身籠ったら認知してあげるよ」
低俗な言葉を使ったら、たしなめられるどころか、最低な言葉で返されて、絶句。
しかも行き先は二階だと知って、おれは階段をあがる礼介くんを見上げる。知らない空間。未知のステージ。足音のないのに気付いた礼介くんは振り向いた。
「ついておいで」
「はい」
おそるおそる、登る。古い家の階段は狭くて段差が大きい。忍者屋敷みたい。わお。
真っ直ぐの廊下の左右に障子が並んでおり、風通しのためか、使われていない部屋は解放されていた。一番手前の、閉めきられた障子を礼介くんは開ける。そこが礼介くんの部屋だとよく知っている。部屋のなかを見る前からどんな景色かわかる。名探偵の部屋は意外と狭いのだ。入って目の前が机。右側にほとんど使ってない押し入れ。左に寝台。大きな腰高の窓からは街並みと、遠くに、きらめく川を横切る電車が見える。
憂鬱のせいで寝たきり引きこもり勝ちになっている名探偵を、小説家はことあるごとに連れ出すのだ。
礼介くんは机の下の引き出しからファイルを取り出した。ものすごく古いやつ。でかくてかさばるやつ。
「なあに、それ」
「事件のファイル」
探していたページを見つけて、彼はおれに手渡した。
「ほら、どう見ても罫ではないだろ」
お母さん。
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