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あやうく叫ぶところだった。口がそう動くのを……止められたかどうか、定かじゃない。頭がぐわんぐわんする。脚が震える。
美しい黒のドレス。控えめにセクシーでゴージャス。高級そうな装飾品。きちんとセットされた髪。作り物とは思えない微笑。どの配役なんだろう。どのお芝居なんだろう。まだ独身で苦労していた時代。まだ安定とか信頼とかなかった頃のお話。おれがいろんなおれであるように、お母さんもいろんな人だった、って、聞いたのは本当に子供の頃だったから、写真を見てそういえばと記憶が掘り起こされる。
力が抜けて、おれはへたりこんだ。それでも目は写真に釘付けのままだ。
「美人すぎて驚いた?」
「………………うん。…………………」
そういうことにしておこう。そういうことにしておく。だって幸多役でこの反応はまずい。
礼介くんは、おれに背を向けて窓の外を眺める。探偵は電車の通りすぎるのを眺めるのが大好きなのだ。平凡な日常の象徴だから。
素のお母さんの姿ではないけど、目に焼き付ける。おれは写真の一枚も持ってない。遺品なんてなかった。世界が終わるってそういうことだ。形見は幼い頃の記憶しかなく、それだって何べんも何回も再生してたら、余計なシミとか色焼けでボロボロだ。本当にあったことなのか、他の記憶が混ざってるのか、妄想なのかわからない。
見開きの右がその写真で、左にはメモがいくつか挟まっていた。それぞれ違う紙で、たった一言ずつ。23時に駅の南口で。泥棒にはお気をつけて。この中で一番得をするのは誰? 2BER-3EE-67TN。4/27 16:32 粉川さんから連絡あり。折り返しお願いします。
おれの記憶にはないけど、それを誰が書いたかわかる。読みやすくて綺麗な文字。透き通った川の水。心地よいそよ風。
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