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「えー、えー、えええ。あるでしょ。そばにいなくても思うだけで力が沸いてくる的な」
「本人がいなきゃ意味がない」
「だーから! それが出来ないからみんな思い出とかモノとか大事にすんでしょうが!」
意味がない。礼介くんは繰り返す。いや、わかるよ。わかる。形見なんかより墓石より本人いなきゃ意味ないってすごくよくわかるよ。でもムカつくのはムカつく。
「礼介くんさあ、泣きなよ」
おれは立ち上がった。
「なんのために?」
「自分のためにだよサイコパス野郎ほんと、っ……ムカつく、なんでわかんないの! そうやっていつまでも立ち止まってりゃ、なかったことになんのかよ、もう罫くん、いないんだよ……うわあすげぇ言いたくない、でも礼介くんは生きてかなきゃなんないの! 明日とか未来とかあんの! もらったもの全部活かしてより良い人間になろうとは思わないの?! その人がいたから自分こんなに真っ当な人になりました的な、結果で、人に優しくできたりやなことに立ち向かえたり、孤独じゃないって思えたり、愛とか希望とか信じたり、とか、なんかそういうの、微塵もないの?!」
「ない」
「うるせえ泣け」
「泣かない」
「じゃあおれが泣く」
びえぇ。
涙腺はとっくに限界でバケツひっくり返したような大豪雨。大洪水。大号泣。もう無理びゃん。つらたん。悲しさで死ぬまである、これ。
いなきゃ意味ないの、わかるよ。代理はないよ。思い出をほじくりだして眺めるよりも、変に気遣った言葉でくるんで勝手に昇華させるのも、嘘ついてるみたいで礼介くんは嫌なんだろう。名探偵は真実しか興味ないのだ。今とか明日とか、これからの瞬間にもちゃんと本人がここにいてほしいって、わかるよ。わかるんだけど、おれは、両親の写真一枚すら、ない。
意味がない、なんて、言わないでほしい。問答無用で失わなきゃならなかったおれの気持ちが、あんたに分かるか。
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