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『いや、なんでやねん』続
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自分事で申し訳ないが、俺は病院生活を送るずっと前から映画好きを公言してる。
特に洋画が好きで王道モノからマニアックなモノまで割と好んで見る傾向にあった。
ホラー映画はずっと得意だ。
そして入院生活の中で、暇な時間を持て余していた俺は更に映画を見まくった。
だが、俺は自分の気に入った映画や、面白いと思った映画を周りの人間に勧める趣味はない。
ただ聞かれた時だけ答える程度でわざわざ自分から語るようなことでもないと思っていたからだ。
最近はその趣味が昂じて映画ノートならぬものを作ったりしていた。
物語が好き、なんだけど物語の構成だったり、その場面だったり、そのセリフだったり、俳優さん、女優さんの動作だったり、もっと言えばカメラワークとか、挿入曲を流すタイミングだったりそういうところに注視して見るとまた新しい感覚があって俺は楽しい。
『真面目に答えんなよ』
じゃぁ、なんで聞いてきたんだよ。って普通の友達相手なら返せたかも知れないが、相手が年上で尚且つ、良く知らない人なら尚のこと返事に困った。
まぁどういう形であれ、映画制作に携わる職に就きたいと思っていた。
バイトもして資金集めて、映画見ていっぱい勉強して、これからだった……
何もかも、これからだと思っていた。
『いつだって真面目でそー?』
今日は機嫌がいいのか、会話がよく続くなと思った。
俺自身も普段から未読常習犯だが、今日は気を紛らわしたかったのかも知れない
もう夜中の2時になってしまった。
明日も平日で普通に出勤だろうに、この人は何が悲しくて俺なんかを相手にしてるんだろうか。
馬鹿だなーってスマホを手放した数秒後、スマホが震えた。
こんな時間帯に電話が鳴るなんて酔っ払った友達だろうか、、なんて考えていたが、表示されていた名前を見た時、自分の目を疑った。
本当に心臓が止まるんじゃないか。って怒りたくなったが、深呼吸を置いて携帯使用エリアに移動した。
深夜ということもあり、電話エリアには誰一人居なくて、場所も場所だから背筋がゾワっとなった。
「あ、もしもし。電話大丈夫だった?」
「いや、なんでやねん」
エセだな〜って鼻で笑われたのがわかった。
耳がくすぐったい。
いつぶりだろうか。この人のこの低い落ち着いた声を耳に入れたのは。
今すぐスマホの画面にキスしてやりたい。
なんならしてやろうか、こんチクショウ
「最近忙しくて全然相手してなかったから、明後日に有給とれたから久しぶりにゲームしよ」
そう、一緒にゲームをする約束を取り付けるとき、大抵の場合は社会人に合わせる形をとっていた。
高校生の俺は何かと都合がつくが、社会人の彼はそう簡単には仕事を放棄出来ない。だから俺からは極力、あまり誘わないようにしてる。
「それ完全に彼女をデートに誘うときのやつじゃん。
なに?俺のdarlingなっちゃう?」
こんな冷え切った空気の中で俺は何を言ってるんだろうか。
自分で言っていてあれだが、身震いするほど寒気がした。
「一日だけな」
すぐ側で救急車のサイレンの音が聞こえた。
後の自分の姿を見た気分になってなんだか複雑だった。
「よく言うよ〜。彼女とえいがでしょー?」
俺はヘラヘラ笑って窓に額を着け、真下に止まった救急車を見守った。
俺も早々に死ぬんだろうな。
もし最後に映画を見るなら何がいいかな?
あーーー本当に悲しい。みんなとお別れをしなければ…。
「それはまたちげぇよ。映画行くんなら有給とってまで野郎と遊ばねぇよ」
淡々と声色を変えず話す声はゲームをしている時となんら変りない様子だった。
「と、社会人男性は悲しげもなく告げるのであった……」
「せめて、めでたく終われ」
そんなおかしな聞いたこともないツッコミを入れられた俺は、一人腹を抱えて笑った。
あまりにおかしくてツボっていたら看護師さんが苦痛の呻き声と勘違いして駆けつける始末に本当に申し訳ないと思った。
それじゃまた詳しいことは後日連絡するからと業務的に終わった会話に、おやすみ。と囁かれ、これを最後の思い出にしてしまいたいと考えてしまった。
俺、死ぬことしか考えてないなぁ
『めでたく終われ』
響いちゃったよ、その言葉。
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