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「死ぬんだす俺」
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「死ぬんだす俺」
何だかふと口から出てしまった。
こんな生き残りのゲームをしているからだろうか。
「敵いた?結構離れてると思うけど。」
もう既にゲームを始めて2時間近く経過していた事もあって彼のプレーも見違えるほどいい感じになっていた。
いつも見ていたカッコイイ彼の姿を見納める気分だった。
「今どこ?物資だけ拾ったら行くわ」
ゲームに夢中で俺の発言の全てがゲームだと思ってる社会人が面白くて揶揄いたくなった。
そしてもう無理なのに、助けようとして駆けつけてくれる姿も最高にカッコイイと思う。
「家」
俺は素直に答えた。
いつもの俺は多分、、、素直じゃない。多分ね。
わがままを言える環境じゃなかったし、自分自身に興味がなかったからかも知れない。
「それは知ってる。所在地を言え」
ゲーム内で別々に住宅街らしき所を散策していた俺たちは詳しい位置情報まで把握していない。
ゲームなんだよ。
俺は物語の序盤で死ぬ そういうキャラ設定で、終盤には誰もが忘れてエンディングにも乗らないようなそんな薄いキャラだと考えれば何でも無いような気がした。
「家(言え)だけに? 所在地まではさすがに...個人情報は教えられないな」
俺は言わずもがな、しょうもない男だ。
それを承知の上でこの人は俺とゲームをしてくれている。
俺は助かりたいのだろうか。
それとも彼に助けて欲しいのだろうか。
どちらにせよ、彼が笑ってくれるのならそれでいい、それだけでいい。
「何言ってんの、俺が助けに行かないとお前死んじゃうけど」
そう言って彼はいつものように笑った。
どんな些細な冗談でもこの人は呆れながらも笑ってくれる。
「やだ、何この人、かっこいい」
そうだよ、俺死んじゃうんだよ?
あんたが助けに来ようが来まいが死ぬんだよ
「おい、オネェ出てる、出てきてるから」
「あぁごめんごめん、油断したわ」
いつもみたいな本当にどうしようもない会話をしていると、俺が膵臓癌だなんてあの医者の誤診じゃないかなんて考えてしまうんだ。
「助けにいこうか?」
助けてくれるんだ。
お医者さんでも怪しいのにね。
「いやもう、遅いかなー」
俺は笑って言った。だってゲームなんだから。
死ぬのは怖くない。息をするように生きていれば誰もが体験するこの世の理だから。
ただ、それが特別な死でありたい。
「何、やばいの?回復持ってない?」
マップに表示された彼の位置が俺に近づいて来ているのが分かった。
それでも結構離れていたようで、まだ俺の元には辿り着かなでいる彼に投げた。
「もうね、運命には抗わないの俺」
こんな話を誰か他人にするだなんてどうかしてしまったんじゃないかと正気を疑ってしまう。
これは俺の人生だ。運命には抗わない。
誰かに俺の人生を語る日がこんなにも早々に訪れようとは思っても見なかった。
もう年老いたおじいちゃんにでもなったのかな?
「何言ってんの?」
本気で困惑した戸惑いの声が聞いてとれた。
もう、すぐそこまで来ていた彼が窓から見えた。
ロミオとジュリエットみたい なんて考えた。
「黙って死ぬよって言ってんの」
俺がジュリエットだったら本当に彼を愛していたのか,,,,,。
いやきっとそれこそ別れる運命だったんだろうなって思う。
「死ぬなよ」
笑って戯けて、重力も感じないほどに軽く話していた俺に対して、彼の言葉はあまりに重くて、、、何だか死ぬことが申し訳ないことのように感じられて気まずくなった。
鼻を鳴らして彼がいつもしているみたいに呆れた笑いをこぼして俺たちは最後まで生き残った。
死なないよ。
死ぬまではね。
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