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『ねぇ、会いたい?』
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『ねぇ、会いたい?』
冗談で俺が揶揄うように言った。
そしたら会いたいよ。って平然と返された。
俺の冗談をそうやって簡単に台無しにしてしまうこの人の余裕が面白くない。
正直に言おう。この画面の向こう側にいる男、加工なしでこのイケメン具合はずるいと思う。そのくらいカッコ良かった。
いや知ってたけど。気に食わん。
左右に分けられた前髪も短い襟足も、二重だけどキリッとした目元も、少し褐色肌な所も、流暢に動く口元も、何もかもが刺激的で目が離せなかった。
『「せら.とむ」ってどんな字書くの?』
自分が今どんな表情で、何を考えているのか詳細には分からないことが怖かった。
この人は簡単に俺の名前を呼ぶ。まるで自分のモノみたいに俺を呼んでくるから、俺はいつも喜んでしまうんだ。その距離感の居心地の良さにときめいてしまう。
ちょっと待って。って言った後にメッセージで世良杜夢と送った。
彼はへぇ。そんな字書くんだ。かっこいいじゃん杜夢。ってサラッと名前を呼んでしかも愛着湧くね、その名前。とか言ってきてもう俺は限界だった。
名前ひとつでこんな気持ちになるなんてどうかしてると思うし、この人もこの人だ。いい大人がそこまで名前に関して話題を広げる必要性もないだろうと思う。
俺はムウっと不機嫌になった。
大人はずるいと思う。嘘も本当も口に出してしまえば物事が勝手に動いていく。
信憑性なんてものは二の次だ。
なんで怒ってんの?って不思議そうに聞かれた。
怒ってないと俺が答えても困ったように笑われてチーズケーキあげるから機嫌なおして?って言われた。
俺が不機嫌になった理由はもうひとつ別にある。
……母親からのメッセージをずっと無視してる。
入院する為の準備をしろってメール。
一応抗議はした。
人が死ぬのは自然な事だから抗いたくないって。抗ってしんどい思いするくらいなら、楽しかった思い出だけが欲しいって俺なりには頑張って勇気出した方だったんだけど、ダメだった。
納得して貰えなかった。
懸命に生きなさい。って別にどっかの国と戦争してるわけでもあるまいし。
別に死にたいわけじゃない。
ただ生きることに対して執着していないだけ。
最後は結局病院でくたばるんなら、少しくらい自由な時間が欲しいだけなのに。両親は、特に母親は理解してくれない。
強い薬飲んで俺がボロボロになる姿が見たいの?とはさすがに言えなかった。
でも嫌なことには変わりないから気が進まないのが現状。
もうすぐ死ぬから機嫌直すよ。って冗談で言ったら笑ってくれるだろうか?
いや、今の俺が言ったら洒落にならないからな。やめとこ。
俺はもう一度彼に『俺に会いたい?』って聞いた。
多分、聞くのはこれで最後。この長いようで短い電話もこの話題で最後。
『どうした?なんかあった?』
何にもないよ。って何度も言ってるのに、この人は頑なに問いただしてくる。
じゃなんでそんな顔してんの?って言われても自分が今どんな顔してるかなんて分かんないし。
自分が今、この人に何を求めてるのかイマイチ分からないな。
生きる希望が欲しかったのかも知れない。
頑張る理由が欲しかったのかも知れない。
ハゲる覚悟が欲しかったのかも知れない。
「ごめん。今の忘れて。」
あぁ、
そうか。
よく分かった。
俺は
死ぬことを
許して欲しいんだ。
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