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『映画をみよう!!』
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『映画をみよう!!』
年始の電話から俺の体調は一気に悪化した。免疫が弱まっているらしく、薬を用いた治療は一旦休止されることになった。
俺はベッドから起き上がるのもしんどくてただただ目を瞑っているか、音楽を聴いているか、映画を見るかのどれかだった。
『俺がセレクトしても?』
お互い、同じ動画視聴アプリを持っているので映画を見ながら電話を繋いで感想を言い合う。(俺の体調がいい時に限るけどね。)
彼からの提案とは珍しかった。基本、俺主催で俺が勝手に決めて、彼が付き合ってくれている。彼も意外に映画好きで、俳優や映画監督の作品で盛り上がったりすることも少なくない。
彼が選んだ映画は(俺の中では)有名な映画だった。
俺が初めて泣かされた映画だった。
俺が映画を好きになった最初の作品だった。
シリアスな内容だけど、ポップに描かれていて最後に落とされる。よくある映画の展開だけどこれだけは泣かされた。
そういえば自分ごとになるが、最近になって遺書を書き始めた。
彼にも書こうと思ってる。
彼にはまず俺が病気だったことから伝えなくちゃいけない。
それから、惹かれていたことも。
会いたい理由も。年始早々泣いた理由も。それから....何を伝えようか。
初めて交わした言葉とか?分かんないけど、あなたに書く遺書が一番長くなる気がしてるんだ。
『いいチョイスだね。この映画、10年も前なんだー。』
じゃ、ちょっと移動するね。ってことで俺は病室を出て手すりに捕まりながら病院の内部にある喫茶店の端の席に座った。
いつも映画を見る時は決まってこの席だ。
それといつものアイスカフェラテと。
『体調は?』
アイスカフェラテを飲んで、ガムシロップを入れるか迷ってるところに返答に困るやつが届いた。
『死ぬほど元気だよ。』
体力が戻ったら手術するとかしないとか??
でも今だけは元気だから、嘘は言ってない。
『それは良かった。退院はいつ頃?』
俺が癌であることはまだ言ってないし、これから先言うことも無い、、、とおもう。
今は体調を崩して少しの間だけ入院していると伝えた。
これも俺の中では嘘には入らないから。別に良し。
『明後日だったかな?』
『これで俺も無事学校に通えると。』
『学生らしいこと。』
彼のその文面を見て、ああきっと呆れたようにわらってんだろな...って思った。
退院祝いしようか。って彼が言った。仕事も落ち着いているらしく、会おうと思えば会えるけど、どうするって聞いてきた。
この人は俺が断るという選択肢を持ってないことを知ってるんだろうか。と正直怖くなった。どこまでも見透かされてるような気分になってなんだか複雑な気持ちになった。
案の定、俺はいいねと送っていた。ハゲてるの気にしてるからそこには触れないでね。って前もって忠告しておいた。
ハゲててもお前はきっと似合ってるよ。って本心みたいに言ってくるこの人が憎い。
そこはからかってほしかった。もっとバカにして笑ってほしかったのに。この人の妙に真面目なところとかほんと、どうにか何ないかなって思えてきて笑ってしまった。
結局、ガムシロップを入れなかった無糖のカフェラテを飲んで、
電話を繋いで、そして本題の映画を見た。
ああ、やっぱり悲しい映画だなって思った。
誰の望みも叶わないで終わってしまうのに、それがとても美しいと思わせるエンディングが堪らなく好きだと再確認させてくれる。
本当に惚れ惚れしてしまう。
俺は音が出ないように拍手をした。
「なんでこの映画を選んだの?」
俺は吐き気を抑えるように静かに息を吐き、呟いた。
「何となく杜夢が好きそうだなって思って。」
「お、大正解。俺この映画ずっと好きなの。」
何だろうな。
俺はいつから人を疑うことを覚えたんだろうか。
彼がそう答えることを予想していた。
そして2割ほど残ったままのカフェラテを少し遠ざけて透明の窓ガラスに反射する人物に微笑んだ。
「うん。知ってた。」
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