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「ねぇ聞いて!」
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「ねぇ聞いて!」
俺は急いで自販機で2人分のジュースを買って部屋に戻った。
聞いて!聞いて!と小さな子供みたいに俺は彼の元へ歩み寄る。
日が差す午後の病室に窓際のベッドに背を向けて座るひとつの背中がだんだんと近づいてきて、逆光から遠ざかった頃、彼の手に1冊のノートが収まっていることに気づいた。
俺は素早くジュースを手渡し、ノートを彼の手から取り返し引き出しに閉まった。
今のこのハイなテンションをこんな些細なことで台無しにしないでくれ。
俺は今見た光景も、引き出しにしまったノートの存在も全部無かったことにした。
お兄さんは束の間の出来事に呆気に取られたように立ち上がり、俺を落ち着かせるようにベッドに横になるよう、催促した。
「ねぇねぇ!!……聞いてよ。」
つい先程の出来事を嬉しさと衝撃と興奮と色々な感情が混じりあってる中、話す準備をするため一言彼に告げた時だった。
自分が今から彼に何を話そうとしているのか、それを考えると一気に冷静さを取り戻し自分の分のジュースをテーブルに置いて、少し横にずれて手招きをした。
「なんだよ。なにか見つけたのか?」
大人しく俺の指示に従う彼がアホらしく思えた。
ベッドに腰を下ろし、話聞いて欲しいんでしょ?と促してきた。
さっきみたいに触れたりしない、程よい距離感。
俺の求める適切に保たれたその距離に酷く安心感を覚えた。
未だ口を開かない俺に何も言わず、それでも暖かい眼差しを俺に向ける彼は本当に不思議な人だと思う。
「お兄さ……山田さん、いつ帰るの?」
何その呼び方?急に他人行儀?と怪訝そうな顔で俺を見つめた。
そんな彼の表情を見て俺はクスクスと笑った。
「誠でいいよ。それかいつもみたいにお兄さんて呼ばれる方がマシ。」
じゃ、その間をとってまこ兄ってのはどう?って俺は割と真剣に考えて出した提案だったが呆気なく一蹴されてしまった。
お兄さんは「誠で。」って
なんなら食い気味にそう言ってきたので仕方なく俺は誠さんと呼ぶことにした。
そういう所だけはよく躾られたもので、目上の人に対する礼儀作法はきちんと教育されたから簡単に呼び捨てなんてできるか。
敬語を辞めたのも、つい最近の出来事で出会った当初なんてどれだけ畏まってたことか。
「面会時間のギリギリまで居るつもりだけど、邪魔ならいつでも帰るから。」
「面会時間のギリギリまで俺と居たいわけだね?」
ほほー。なるほど。そーかそーか。と俺は得意げに腕を組んで煽るよに言った。
大人な彼は何も言い返さずにそうだよ。って。
だから話してみな?って平気な顔をして言う。
これが経験値の差なのか……ぐぅのねも出ない。
俺は開き直ってベラベラと話すことにした。
もうこの際、この人がどう思うとも構わない。先のことなんて知るか!と全てを放置して何を聞かれようとも応えようと決めた。
「さっきね、懐かしい人と会ったよ。俺が行方不明になった時に会った子なんだけどね……誘拐事件なんて何もなかったみたいに世間話してさ!いやぁ時の早さを実感したよ、俺は。」
案の定、彼の頭上には『?』が浮かんでるようだった。
顔を顰めた彼は俺に詰め寄り、急かすように口を動かし続けた。
「誘拐?いつ?どこで?誰に?誰と?何された?誰かに話したか?」
「まぁまぁ落ち着いてよ。よくある話じゃないか。」
俺は気負いされて、落ち着かせるように努めた。
俺的には冷静に話し合いたいんだが。
それにもう、随分と前のことだし、、、。
「あってたまるか。」
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