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「絶対他言無用で。」
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「絶対他言無用で。」
話すとは言ったものの、どこからどう話せばいいのか…。
と言うか、別に話すこともないんだよな。
だって何も無かったし。
「ごめんね。こんなこと聞かれても困ると思うんだけど、何が知りたい?」
暫く、うーんと唸っていたが諦めて彼に聞いてみた。
案の定、彼は困ったように笑って、じゃあ俺から話していい?って逆に尋ねられた。
いいよ。話してみてよ。って俺は彼の好意を素直に受け取ることにした。腹を割って話すのはそう簡単な事じゃないってことをこの人はよく知ってるんだなって思った。
相変わらず優しい人だなぁ、なんで彼女ができないのか分からないな。って彼のどんな秘密を知れるのかワクワクしながら待ってた。
「小学校の時、仲間外れにされてる所を見たことがあった。」
聞かされたのは衝撃も衝撃、何なら知りたくなかったまでもある。
でも俺はそんなことあったっけ。って惚けて何も知らないふりをした。彼は俺の頭を撫でるだけで否定も肯定もしないまま、話し始めた。
兄貴が話してたような可愛げのある弟じゃなくて、スカしてんなって思った。まだまだ子供なのに大人みたいな対応して、でも目上の人にはビックリするくらい子供で接してて、どれが本当の姿なのかずっと疑ってた。と彼は言ってた。
どこまで見てんだよって正直に思った。
どこまで詳細に覚えてんだよって記憶消し去ってやろうかと思った。
でも俺は大人だから躍起にならないし、拗ねたりもしない。
「そこは世渡り上手って言って欲しいなぁ。」
俺が軽い口調で言えば、お前は出来る子だよって言われたから誰目線だよって言ってやった。
でもこの人にそう言われると確かに今まで上手いことやってきたよなって今回も上手いこと立ち回れる気がしてきた。
「あの日、俺が好きな作家さんの新刊の発売日でさ、1人で電車乗って廃れた商店街の中にある本屋さんに行く所だった。」
駅まで案内して欲しいってお兄さん達に声かけられて、いいよって車乗せられて、その時にやっと誘拐されたんだなって気づいた。
でも俺、怖いとかよりここじゃないどこかへ連れて行ってくれるって期待してる方が大きくてまぁいいか。ってなんかそんな気持ちだった。
それで本当に知らないところに連れていかれて、確かボウリング場だったのかな?なんか色々遊べそうなものがいっぱい置いてあるところにさ、俺と同い年の子が居たんだよね。
俺が話しかけてもその子、ずっと泣いてた。
その時、何を思ったのかは分からない。
ただ、ぐちゃぐちゃになるほど色んなことを考えた。
なんで俺はあの子みたいに泣けないんだろ。って最後の最後に疑問が出てきて泣きじゃくるあの子の声がすごく煩わしく感じた。
それで仕方なしに色んな話をしてあげた。落ち着くまでずっと話して、聞いてあげた。
それでもまだゴタゴタ言ってくるから、お兄さん達に可哀想だから返してあげてって言いに行ったら「何も言わない」を約束したらいいよってちゃんと送ってくれた。
「まぁ、見送ることは出来なかったけど。」
はい終わり。って俺が言うと怪訝な顔で終わり?って聞き返された。
そんなわけないだろって顔に出てて、思わず笑ってしまった。
「ほんとに聞きたい?」
俺はニヤニヤが抑えられないまま深刻そうな顔をする彼に聞いた。
そしたら言いたくない?って即答されて、ものすごく心配そうな顔をするから俺が被害者ズラして彼の良心を利用してる気がして「そういうわけじゃないけど」って言い訳がましく言ってしまった。
「じゃ、やられたことだけ端的に話す。」
アルコール度数の高いお酒を吐くまで飲まされた。
どこから出てきたのか、血の垂れたボロボロの猫がボチャって聞いた事のない音がして俺の足元に捨てられて、よく見たら猫の口に大量のタバコが押し込まれてた。
それも1匹だけじゃなかった。
起こった事実をそのまま口にした時、何故か涙が溢れてきて止まらなかった。
当時、抱いた感情や気持ちが憑依したみたいに涙が止まらなくて、、、声が震えて話すのを一旦やめて深呼吸をして落ち着こうとした。
蓋をしてた。
あの時、感じたことも考えたことも、消化しきれない事を分かってて全部飲み込んで、そのまま取り残された感情が膿みたいに出てくるのが分かる。
しんどいって
辛いって
嫌だって
ふざけんなって
幸せを謳歌してる今の俺に言ってくる。
忘れないでって言われてる気がした。
でも俺は今すぐにでも忘れたいし、憶えてても何も良い事なんてないし。
置いていかないでって心臓がこれでもかと言うほど叩いてくる。
これじゃ肋骨が折れそうだから是非とも置いていきたいですね。
視界の端に困惑して俺の涙を拭おうとする彼の姿が見えたが、俺はそれを拒んだ。
顔なんて合わせられない。俺は今、醜態を晒してる最中なんだから、変に優しくされても素直に受け取れられない。
だから俺は布団を握りしめて、できた皺を一点に見つめてまた話し出した。
いきなり話し出した俺に彼は「もういいよ」って何度も言うけど俺も俺で話すのを辞めないから、向こうも諦めたように布団から俺の手を剥がし優しく握って聞く体勢に戻った。
全裸にされて、ロープに吊るされて、ほらメリーゴーランドだよって、笑えよって、楽しいって言えって強要された。
オシッコをかけられて、おやつだよって猫の餌を食べた。
首を絞められて、失神させられて、また目覚めたら首を絞められて、そんなゲームをした。
大量の水を飲まされて溺れた。
それで気失ってる間に廃れた商店街に戻されてた。
「あぁ『生きるってこういうことなんだ』って……」
今度、家で新作の映画でもゆっくり見ようか。って急に言い出して思わずえ?って声が漏れてしまった。
俺の言葉を遮ってまで言いたかったことなの?って、
変なところで不器用な人だなって思った。
でもこのくらい不出来な方が俺には合ってる。
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