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『これは披露宴になる予定』
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『これは披露宴になる予定』
少しずつ薬の頻度が増えてきた。
食欲もない。
ただ何もせず眠ってることも増えた。
今日は誠さんとランチに行って、随分昔の映画の再上映を見に行く。
『詳しく説明して?』
『もう着くよ』
誠さんの返事を無視して、それだけ送って家を出た。
家の前には車が止まっていて、運転席に座る誠さんが助手席のドアを開けてくれる。
「よっ!」
「お前、もう着くって家から出ただけだろうが。」
俺が満面の笑みで車に乗り込むと誠さんは、呆れたように言った。
「間違っちゃないでしょ」
ケロッと返す俺に誠さんは鼻で笑って、シートベルト締めた?と一言確認の言葉を発して車は出発した。
ランチは美味しかった。ざ・和風と言った感じで、俺があんまり重いものを食べれないから配慮してくれたんだと思うけど
控えめに言って美味しかった。
でもやっぱり全部は食べきれなくて、誠さんが当たり前のように俺の残りを残さず食べてくれた。
その様子を尻目に見てた俺が「死ぬかもよ?」って冗談で言ったら「お前が寂しくならないならそれも僥倖」って冷えた水を流し込んだ。
なにそれ。って言って笑った。
寂しいわけがない。
今、こんなに幸せで満たされてるのに、寂しいなんて思わない。
薄情に聞こえるかも知れないけど、俺は誠さんが居なくても寂しいなんて思わないからね。
「これから見る映画、1990年公開だって。俺生まれてないんだよなぁ…全盛期に見たかったー。」
これから見る映画の詳細を調べて、本音を漏らす俺に平然とした顔で答える誠さんの、こう言うところが好きだと改めて思った。
「タイムスリップしたと思えばいいんじゃ?」
「お兄さん、かしこかよー。いいね。」
俺がまたケラケラ笑って返すと、誠さんも微笑ましいと言わんばかりに俺を見た。
「そうだ!忘れるところだった。」
これ、渡しとくね。俺は一つのUSBをテーブルに置いた。
誠さんは頭の上にはてなを浮かべて俺を見る。
「披露宴だよ!誠さんが喜ぶような俺たちの披露宴!」
俺は当然のように言ったが、誠さんはどこか複雑な表情を浮かべていた。
何でそんな顔するの?って本当は聞きたかったけど、無神経な発言をしてるのは俺なんだよな。って何となく察した。
「なんだよそれ。」
「まだ見ちゃだめだよ?その時が来たらちゃんと…」
「分かったよ。今は見ない。」
テーブルに置かれたUSBを受け取った誠さんの表情が曇っていて、寂しくなった。
そんな顔、見せんなよ。って言ってやりたかった。
俺はあんたが居なくても、寂しいなんて思わないけど
あんたがそんな表情をするから寂しくなるんだって言えばよかった、かな?
そろそろ行こうか。って2人でお店を出て映画館に向かった。
俺は誤魔化すみたいに。不器用な鼻歌を歌った。
誠さんは「何だよそれ」って笑った。
それでいい。それでいいんだよ。
誠さんは何も悲しまなくていい。
笑って過ごしてたらいいんだよ。
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