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7日
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ー山田誠ー
もう三月に入って、俺の部署からも何人かが異動になることがわかった。
だからもうずっと引き継ぎ作業やらでバタバタしていて、残業もざらじゃない日々にようやく終わりの兆しが見えた今日、隆景から渡すものがあるからと公園に呼び出された。
もうとっくに日は暮れて、息も白い。
公園のブランコに座ってなんとなく揺れていたら小走りに男が近づいてきた。
「おまたせ。はいこれ。」
「ん。何これ?」
隆景は隣のブランコに座って「死人の私物。」と言った。
心臓にとんでもない負荷が一気にかかった感覚があった。
それでも俺はありがとう。と声を絞り出した。
「......」
「......」
二人してブランコに揺られて何をしてんだか。って俺はおかしくて思わず笑いが溢れた。
どうしようか、何を話そうか考えてたら隆景が先手を切った。
「20歳の時に一人暮らし始めてもう7年近く経つけど、その間に弟と会ったのって数えるほどしかなくて、もっと構ってやれたらよかったなって今更ながら思うんだわ。」
「うん。」
「...兄弟だけど、限りなく他人に近い兄弟というか、お互い必要以上は干渉しないっていう暗黙の了解の中で関係性を保ってきたところもあって、あいつにとって俺の存在ってなんだったんだろうな。って今になって思ったりしてる。」
どちらともなく、いろんなものを含んだ笑いが溢れた。
本当に今になっておかしな話だ。
死んだ人間に答えを求めるなんて...らしくない。
確かに杜夢はあまり兄貴の話、というか家族の話はしてこなかった。
特に兄貴の話は俺から振っても曖昧な返事の後、何と無く流されてた印象があってあまり話題にしなかった。
ただ「いい兄貴だよ。」と本心か偽りかはわからないけど、何度かそういう評価をしていたのは確かだ。
誰にとって、何がいい兄貴なのかは、俺にも隆景にもわからない。
「いい兄貴でしょ。それ以上もそれ以下もないだろ。」
「いい兄ではないが、まぁそれも事実か。」
それで、お前らの関係はどうなの?ってさらって聞かれて「ただの友達の弟」って答えたら、もう隠さなくてもいんじゃん?って言い返されて、
「だってもう終わりでしょう?」って言われて、
あぁ。兄貴のこういう所あいつは嫌ってたなって失笑に似た笑いが出た。
俺も嫌いだわ。
淡々としてるというか、デリカシーがないというか、自分の感覚に絶対の信頼を置いてるというか、まぁ別にいいんだけど。
「しっかり恋人でしたよ。危く2年経つところだった。」
「...悪い男だなぁ」
隆景は笑ってた。
「本当にそう思う。」と俺も少し笑って言った。
悪い男は俺とお前とどっちだったんだろうな。
先に死んだ男か、生き残った男か。
関係が終わって告白するハメになるなんて、しかも俺一人にその役目を押し付けるなんてあいつはとんでもないワルだ。ってハッと思った。
二人で始めた関係、二人で築いてきた関係、二人で終わらせるべき関係で片方が居なくなった場合、俺はどう終わらせたらいい?
いつか終わるとしても、今じゃなかったし、明日や近い未来でもなかった。
ずっとずっと遠い未来で......
違うな。
もう終わっていて、
これは単なる俺の未練だ。
死人の私物は、
俺の愛した人の未練だといい。
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