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10日
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ー母ー
『これは遺書。ーーーーー』
紙切れ2、3枚程度で涙が止まらなくて目が痛い。
この手紙を何度も読んだ。何度も...。
息子が亡くなった翌日に2週間の休暇をもらった。
それなりに覚悟はしているつもりだったし、私ならちゃんと対処できると信じていたけど、全然そんな余裕なんてなくて、失ったものがどれほど大きな意義を成していたのか私は見誤っていた。
私と杜夢は本当の親子じゃない。
杜夢が3歳の時に今の夫と再婚し、二児の母親になった。
知らない子の母親になるってこんなに難しいことなのか。って挫けてばかりだった。
小学校に上がってからはフリをするようになった。
心を開いたフリ、楽しいフリ、息子のフリ。
たまに、本当に稀なことに、杜夢が杜夢じゃない瞬間があった。
息子でも弟でも友達でもない、
他の誰でもない瞬間があることを私はずっと知っていた。
それでも私はいつも見守る選択をとった。
本当は心配だし、本音で話して欲しいし、辛いなら辛いと言って欲しかったけど、私は母親として常に見守る選択をした。
その選択に何一つ後悔がないと言えば、嘘になるかもしれないけど今はもうそれで良かったんだと思うことにしてる。
だって、ちゃんとわがままを言ってくれたから。
でもやっぱり生きていて欲しかった。
治療する選択をして欲しかった。
大好きだから。
警戒心が強くて、いつも周りを気遣って、
私への口癖は「無理しないで」って眉を下げて苦笑いするところ。
あなたのためなら、無理できるの。
あなたが幸せでいてくれるなら休暇なんていくらでも返上できるの。
あなたが一番大切だから、あなたの望みを一番に叶えてあげたい。
あなたが映画に夢中になってることを知ってた。
あなたに特別な誰かがいることも気づいてた。
それが誰なのかも、本当は知ってるけどあなたから言って欲しかったから聞かなかったでしょ?
あなたが私を大事に思ってくれていることもちゃんと知っていた。
最初はフリだけだったかもしれないけど、あなたの温かい心に何度救われたことか。
私が伝える前にどこかへ旅立ってしまうだなんて...きっと私に似たのね。
母親として、あと何回この手紙を読むんだろう。
その度に私は泣くのだろうか。
涙を流すたびに悔やむのだろうか。
まだ気持ちの整理がつかない。
まだどうやって生きていくべきか答えが出ない。
私はまだ悲しみの部屋にいて、扉がどんな形をしていて、どこにあるのか、見つけ出すことができなくて、実家に帰ってきた。
「ごめんなさい...」
今の私に、私は救えないの。
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